データ活用により効果的な温・湿度管理を可能に
安定したタマネギ生産を目指して
大潟村農業協同組合
営農支援課 課長
斉藤 春彦
さん
大潟村農業協同組合(外部サイトに移動)
タマネギを収穫後にそのまま乾燥可能
- 始めに、タマネギ乾燥倉庫の概要について教えてください。
タマネギは収穫後に乾燥させてから出荷されます。天日干しや、束にして風通しのよいところに吊すなどして乾燥させるのが一般的ですが、当組合では、収穫コンテナに入れたままの状態で、温・湿度を調整した乾燥倉庫において乾燥させています。
倉庫では、最大576トンのタマネギを同時に乾燥させることが可能です。
作物の隙間に空気を送り込むことで乾燥を促す「プレッシャーシステム」を採用した当倉庫は、倉庫内の温・湿度や空気中の二酸化炭素の含有量を感知し、風を送り込んだり窓を開けるなどして、乾燥に適した温・湿度に自動で管理できるシステムを搭載しています。また、スマートフォンなどの端末で、温・湿度を遠隔から確認・調整することができ、効率的な管理ができるようになっています。
導入した乾燥倉庫。各コンテナには1トンのタマネギが収納可能。
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どのような課題がありましたか。
導入した温・湿度の自動管理システムは、他県で開発されたシステムのため、時期ごとの温・湿度の設定値など、開発側が推奨しているオペレーションに秋田県の気候が合っていませんでした。また、秋田県では収穫時期が梅雨と重なってしまい、乾燥が長期化するほか、カビや腐敗等の発生リスクが高くなってしまうという課題がありました。
そこで、秋田県の気候に合わせた適切な温・湿度管理を模索するため、県の産業技術センターに相談しました。
データ活用で、効率的なタマネギ乾燥を可能に
- 課題に対して、どのように取り組まれたのでしょうか。
産業技術センター協力のもと、倉庫内に温・湿度変化を細かく記録できるデータロガーを複数設置し、そのデータを分析しました。データをもとにして、産業技術センターから「このような天候のときは、外気を取り入れ、湿度をこれくらいに調整したらどうか」「風通しを良くするため、倉庫内の手前と奥でコンテナの配置を変えたらどうか」など、その日の天候に合わせた温・湿度の管理について提案をいただきました。
いただいた提案と当組合のノウハウを組み合わせ、効率良く乾燥するよう遠隔操作等を使用して、細かく倉庫内の温・湿度を調整しています。
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導入後の効果は感じていますか。
以前より乾燥工程の効率化が図られたことから、カビや腐敗の発生が少なくなり、品質が向上しています。また、以前は収穫最盛期には乾燥から出庫までの工程に時間がかかっており、倉庫にタマネギが入りきらないという問題もありましたが、一連の工程時間が短縮されたことで少しずつ改善されています。
また、倉庫内の温・湿度を分析したことで、倉庫内でタマネギが乾きやすい位置や配置が判明しました。タマネギごとに持つ水分量が異なるため、水分量が多いものは、乾きやすい位置に配置し直すなどの工夫ができるようになり、乾燥状態の均一化にもつながっています。
より安定したタマネギ栽培の支援を目指して
- 今後はどんな展開を予定していますか。
倉庫内の温・湿度をさらに分析し、乾燥作業をより効率的にしたいと思います。例えば、倉庫に入庫するタマネギの水分量が乾燥作業に大きな影響を与えることが判明しているので、入庫前のタマネギの状態をデータ分析し、更なる品質向上と効率化に繋げていきたいと考えています。
その年によって天候が変わるため、農作物の栽培は柔軟な対応が求められますが、データとこれまで培ってきた乾燥作業のノウハウを組み合わせ、より安定したタマネギ生産に取り組んでいきたいと思っています。
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デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。
業務における課題の抽出や、効果的な改善策を検討するに当たり、データ活用は非常に有効だと思います。経験や知識にデータを加えることで、自らの知見も広がります。しかし、どのようにデータを収集するのか、集めたデータをどのように活用するのかなど、自分たちだけでは分からないこともあると思います。
そのような時は、一緒に課題解決に取り組んでくれる協力者を見つけることをお勧めします。悩んだ際は、まずは地域のICT企業や県の産業技術センターなど、デジタルの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
システム導入を支援した方からのメッセージ
秋田県産業技術センター
電子光応用開発部
伊藤 亮 さん
システムを導入することは簡単ですが、安定的な運用をすることは難しく、今回のシステムも単純に動かせばよいというものではありませんでした。
特に近年の突然の大雨や気温上昇はシステム導入時には想定されていなかったはずです。
今回の取り組みでは、乾燥倉庫内の温・湿度以外にも二酸化炭素量やタマネギ乾燥に必要な風量などの様々なデータの見える化を行いました。
これにより多角的な視点から考察することが可能となり、現在のシステムを最大限に活かしながら最適条件を導き出すことができました。
大潟村のタマネギ生産が始まってから、これまで多くの試行錯誤を繰り返してきたと思いますが、これからもさらに品質が向上したたまねぎが出荷できることを願っています。
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実際に活用した支援制度(補助金など)
- 産地パワーアップ事業(H29)