秋田県デジタルイノベーション戦略室
ICT専門員

平野 文久ひらの よしひささん

秋田県では今後成長が期待される情報関連産業を支援するため、県内ICT企業と県内外の求職者とのマッチングを支援するICT専門員を配置しています。今回はICT専門員の平野文久さんの活動内容やその素顔、活動に対する思いについて、インタビューを行いました。
(インタビュアー 平元美沙緒)

初めに、平野さんのご経歴を教えてください。

秋田県の美郷町六郷出身で、高校卒業後に東京都内の大学へ進学しました。
大学の専攻は数学だったので、秋田に帰って高校の数学教師になろうかと教員免許も取りました。しかし、首都圏の採用試験は合格したのですが、秋田はとても倍率が高く、合格まで時間がかかりそうだったので高校教師になるのは断念しました。
そんな中、たまたまご縁があって企業訪問した日本アイ・ビー・エム株式会社から内定をいただき、大学卒業と同時に入社しました。

日本アイ・ビー・エムに入社するきっかけはなんでしたか。

数学を勉強した後、就職するとしたら教員以外にはあまり選択肢が見つからなかったのですが、当時もコンピュータ会社の求人はありました。10月1日に推薦状をもってIBMの門を叩いたのがきっかけです。後で気づくことですが、数学とコンピュータは多くの接点があります。現在のコンピュータのほとんどが「ノイマン型コンピュータ」といって、ジョン・フォン・ノイマンというアメリカの数学者が生みの親なんです。ノイマンはIBMの顧問をしていたこともある人です。
私は代数学を勉強していたのですが、ノイマン環(かん)もその一つでした。自分では偶然IBMに入社したと思っていましたが、私自身、論理的な思考に憧れている人間で、そうした性格を考えると、コンピュータを開発した会社に入社したことは必然だったのかもしれません。外資系企業で、テクノロジーを生業としたとても理論的で科学的なアプローチを大事にする会社でしたので、自分に合っていたのだと思います。

前職はどのようなことをされていたのですか。

職歴としては営業が長いのですが、最初はコンピュータの基礎を学ぶために10年ぐらいSE(システムエンジニア)をやってました。その中でスペシャリストとして認定されるくらいの技術を身につけながら、金属加工や産業用ロボット・自動車業界などの製造業のお客様を担当していました。
ものづくりの企業の方々は最後まで責任を持って物を作るという気概をもった方が多く、自分で十分納得した上で仕事を進めていくというスタンスの方が多かったことがとても印象的でした。
営業・スペシャリスト時代には、日本初の機器導入や最初のSI(システム・インテグレ―レーション)のPM(プロジェクト・マネージャー)など会社ではじめてチャレンジすることを多く経験してきました。管理職になっても、プレイングマネジャーとして率先してやっていく必要がある会社でしたから、現場感覚はいつも磨かれていたような気がします。

前職での醍醐味というか、面白い部分はなんでしたか。

私が担当したプロジェクトの中にはお客様と一緒に1年から2年以上もかけてシステムを構築・開発する大規模なものもあるのですが、一緒にその山を乗り越えたときは大きな達成感がありました。
当時担当していたお客様は世界一のものや、これまで世の中になかったソリューションを最先端のテクノロジーを使ってどんどん作り出していくことを目指していたので、そうしたプロジェクトを一緒にやっていくことにやりがいを感じていました。

そうした首都圏の大企業でお仕事をされていた平野さんが秋田県のICT専門員になったきっかけは何ですか。

IBMではがむしゃらに仕事していたのですが、60歳で定年退職しました。
父が秋田に一人でおりましたので、退職したら秋田に帰ろうと思っていたところ、秋田でICT専門員の仕事があると情報産業協会様から情報をいただき、大学卒業以来書いたことのない履歴書を徹夜で書きました。
ふるさと秋田に貢献したいという気持ちは以前からありましたので、退職後に首都圏での働き口のオファーは頂いていましたが、自分がこれまで経験したことを秋田で活かせると思い、応募しました。

首都圏から秋田に来て新しい仕事をすることに不安はありませんでしたか。

SE/営業/管理職といろんな仕事をしてきているので、これまでの経験は活かせるだろうと思っていました。特に、ICT業界については熟知しているので、その知見を活かして秋田に貢献したい思いが勝ちましたね。
IBMはお客様の課題ひいては社会的な課題をテクノロジーを使って一緒に解決してきた会社だったので、課題先進県である秋田県においてもその経験を活かすことで、この地方を裕福にしたい、もっと楽に暮らせるようにしたい、住んでいる人が人間としてもっと羽ばたけるようにしたい、といった思いがありました。

秋田のICT専門員に就任されてからのお仕事はどのようなものがあるのですか。

まずは県内のICT企業を訪問し、その企業を理解した上で、大学訪問やイベント出展を通じて、学生にICT企業を紹介しています。また、学生や求職者の方からリクエストに応じて、セミナー開催や個別相談も行っています。

実際に就任されてから、県内ICT企業のイメージは変わりましたか。

学生の視点からすると、先進的な技術を持っていて、その企業しかできないといった特徴ある企業はまだ少ないように思います。秋田の中で、お客様である県内企業の課題に寄り添いながら、ビジネスをされてきているので、お客様ととても良好な関係でビジネスをされている印象は受けますが、競争が首都圏ほど激しくないせいか、特定の分野でトップを取るんだとか、これができるのは日本ではうちだけだといったようなトンガッた企業は少ないと思います。そのため、学生から見たその企業独自の特徴をなかなか出しにくいのかなと感じています。
むしろ、誘致企業の方が秋田の人材を抱え、秋田で首都圏の大手の仕事を行っているので、新しいことにチャレンジできる環境をもっているように見え、学生から企業の特徴が分かりやすくなっているように思います。

逆に学生さんと話す中で、気づいたことはありますか。

現在、デジタル人材は全国どこでも不足しているため、売り手市場です。学生にはどんどん積極的に自分を売り込んで欲しいと思いますが、秋田県人の内気な性格が災いしています。そのため、私に相談を持ちかける学生は、首都圏のICT企業を何社か受けたが、内定がとれないなど、就活に苦労されている学生が多いです。
そうした学生たちと話をしていると、最初は首都圏のICT企業に就職するために個別相談や面談練習をはじめますが、次第に秋田にAターンをして腰を落ち着けて働いてもいいんじゃないかと志望先を変える学生もいます。要は自分に合った会社を探すのが一番良いと思います。それでなければ、入ってから苦労しますし長続きしません。

具体的に学生さんはどんなことに困っているのですか。

私は県内ICT企業の採用支援がミッションになっていますが、学生の相談を受けていると、まだ進路を絞り込めてない学生が少なくないと思います。まずは自分がしたいことを明確にすることが必要です。採る企業側もこんなことに興味があるから応募した、こんな仕事がしてみたいという志望動機がなければ、採用しません。
ICT企業は、他の業界よりもブラックという印象が一部にあるようで、そういう業種に自分がついて行けるかということを心配されてる方もいます。

実際にICT業界はブラックなのですか。

昔に比べると全く変わってきています。
ICT業界全体に言えることでもありますが、1990年代から今で言う「働き方改革」のようなことは業界をあげてやってきてるんですね。それ以前まで私の職場は不夜城と呼ばれていて、24時間365日ずっと灯りがついていて、近隣住民からはまぶしくて敵わないと苦情を言われるようなこともあったほどです。
ただ、私たちだけではなく、当時のICT業界はそのような企業がほとんどでした。
当時は働き過ぎで病気になったり、メンタルに問題を抱えたり、家族と一緒にいる時間がないなど多くの問題がありました。しかし、そういうことがあって国を挙げて改善を図ろうとしていましたし、ICT企業もそれに歩調を合わせて処遇を変えてきたという歴史があり、一昔前に比べると全然労働環境が改善されました。
逆に業務が暇であれば、そもそも企業として事業が成り立っていない可能性があるので、ほどほど忙しいのは当たり前、ありがたいことだと思った方がよくて、だから給料がもらえるんだぐらいの気持ちでいた方がよいと思います。

他にもICT専門員として取り組んでいきたいことはありますか。

学生や求職者にとってもっと魅力的な企業を増やすために、個人的には、企業のビジネスを伸ばしていくことにも取り組んでいきたいと思っています。
県としてもこの情報関連産業の売上高を、現在の300億円弱から4年で1.5倍にすることを目指している中で、どんな支援ができるのかを企業と一緒になって考えていきたいと思います。
そういう意味では、県内に本社のあるICT企業の中には未だに物販が中心で、企業としてどのように売上を安定させていくかといったビジネスモデルの転換が必要な企業もあるように思います。
全国的に、多くのICT企業はビジネスモデルをこれまでの物販モデルからサブスクリプションモデルに転換しています。デジタルネイティブの学生たちはそうしたサブスクリプションモデルが当たり前だと思って県内ICT企業に就職した際に、ビジネスモデルが物販中心であれば、ギャップを感じさせてしまう恐れがあります。
こうした新しい仕事のやり方、稼ぎ方を変えていく、商圏もこれまでの地元密着ではなく、インターネットを使って首都圏だけでなく海外までも視野に入れて拡大している企業もたくさんありますから、そういった企業も含めて、もっと売上拡大を目指してチャレンジしていけるような文化を一緒に作っていければ良いと思います。

ICT企業からのそうした相談にも乗っていただけるものなのでしょうか。

もちろんです。前職ではそうしたビジネスモデルに関わる業務にも携わってきましたし、私のミッションは学生や求職者の採用支援でもあるので、学生さんにとっても働きたくなるような魅力ある企業を増やしていくためにも、ICT企業の皆さんからも遠慮なくご相談をいただきたいと思います。

これまでのインタビューの中で学生もICT企業もお気軽に相談して欲しいというお話がありましたが、働く中で大切にしている価値観を教えていただけますか。

まずはThink、考えることです。ありとあらゆる考えをめぐらし、何ができるか考えること。そしてその仕事は何のためにするのか、目的とゴールを絶えず考えて取り組むことを大切にしています。
やっぱりなぜこの仕事をしているのだろうということについて、納得がされていないと、良い成果も出ないですし、自分のモチベーションもあがりません。この仕事はこういった課題を解決するためにやるんだと、自分はここまでやれる、もしくは、他の人たちを巻き込んで、こんなことができるはずだと、さらには会社・社会全体でみるとずっともっと大きなことができるだろうと考えながら、相手の立場に立って考えることが、私が一番大事にしていることです。

平野さんの性格を一言で表現するとどんなキャラクターですか。

一言で言うと、正直な人間で嘘がつけない性格です。
秋田の方は遠慮がちなのか、なかなか思ったことを口に出さない人が多いと思いますが、私は学生から相談された際にも「このままじゃダメだよ」といったことを口に出してしまいます。

私も今回のインタビューの中で、相談しやすい雰囲気を感じています。

チームの皆と様々な経験をしてきましたし、管理職としても、部下の方々の相談に乗ってきましたのでそうかもしれません。皆、もっと腹を割っていろいろなことを相談してもらいたいと思います。

最後に、就活に悩まれている学生さんやICT企業にメッセージをお願いします。

学生の皆さんには、世の中はどんどん変わっていくので、これからの未来はどうなるか、ICTを使ったらどう変わるかを考えるくせをつけて欲しいです。
私は音楽鑑賞が趣味ですが、今の30代ぐらいの若い人たちに聞くと、ステレオって知らないんです。昔はレコードやCDを大きなステレオで聞いてましたが、今ではビジネスモデルが変わってどこにいてもストリーミングでイヤホンで音楽を聴いています。このようにこれまであったビジネスモデルがなくなって、新しいビジネスモデルができる中で、若い人の働き口・できることはいくらでもあります。これからは若い人が積極的に活躍できる時代が来るので、今あるものを当然と思わないで、自分が新しい世界を創っていくような精神でいて欲しいと思います。メタバースの仮想空間を歩く前に、今の社会にまずは飛び込んで欲しいと思います。
ICT企業の皆さんには社会の課題を若い人たちと一緒にテクノロジーを活かして住みよい社会に、もちろん従業員にもやりがいのある働きやすい未来を先取りした職場・儲かる企業になっていただきたいと思っています。

平野ICT専門員へのご相談はこちら

秋田県デジタルイノベーション戦略室
Email:digital@pref.akita.lg.jp TEL:018-860-2245

今回のインタビューをグラフィックレコーディングしました。