オンラインによる新たなふれあいのカタチ
「あきた舞妓」をより多くのファンへ披露

株式会社せん
営業推進室長 兼 劇場管理担当
松岡 叡美 まつおか さとみ さん

株式会社せん
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 かつて秋田で栄えた「あきた舞妓」の復活に力を注ぎ、その魅力を日本の文化・伝統とともに発信するほか、舞妓の派遣事業を展開する「株式会社せん」。2016年に「あきた文化産業施設 松下」をオープンし、舞妓と交流しながら秋田の文化にふれられる取り組みが話題を呼んでいました。コロナ禍において従来の集客が困難となった今、オンラインでファンと新たな交流のカタチを模索する、松岡さんにお話を伺いました。

活動の場を広げるオンライン配信への挑戦

オンライン配信サービス開始に至った経緯を教えてください。
感染症拡大の影響を受けて、お座敷や劇場で舞妓たちが活躍する機会が減ってしまったため、オンライン配信サービスを開始しました。
2020年4月、ローカルタレントのマティログさんに協力いただき、YouTubeのコラボ配信を試みたのが始まりです。右も左もわからないような状況で、マティログさん頼みだったのですが、配信中にコメント欄が盛り上がったり、画面を通じたトークであっても思いのほかコミュニケーションを上手くとれたことから、視聴した方にとても喜んでいただけました。そこで、本格的にオンライン配信サービスへと取り組むことを決め、準備を進めていきました。

オンラインスタジオへと作り変えた「あきた文化産業施設 松下」の一室。配信するサービスや対象に合わせ、柔軟に機材やセットを変更できるように工夫している。

オンライン配信のために何を導入しましたか。
オンライン配信に必要な機器の導入と環境整備をしました。
まずは、プロジェクターと大型のスクリーンをそれぞれ2台、あとはiPadを購入しました。また、「あきた文化産業施設 松下」館内の舞妓の稽古部屋を、オンライン配信のためのスタジオへと作り変えています。ネット環境も、もともと利用していたWi-Fiが不安定だったため、安定化のために有線へ切り替え、施設内の環境を整えました。
どんな課題がありましたか。
機材を揃えてすぐに、あきた舞妓によるオンライン配信サービスを商品として販売し始めたのですが、当時は対面での業務が主だったので、ネット上でカタチの見えない物を販売するということが初めての試みで…、PRの面に苦労しました。とにかくたくさんの方に届けたいとの思いで、自社で運営するSNSのほか、もともとグッズ販売などに活用していたネットショップ「BASE」と秋田市が運営する特産品ポータルサイト「あきたづくし」に、体験型商品として「あきた舞妓オンラインお座敷」を掲載しました。

ピンチがチャンスに!  さまざまな活躍の場

オンライン配信サービスをはじめていかがでしたか。
2020年7月に無事に「あきた舞妓オンラインお座敷」の配信サービスがスタートしました。劇場公演や企業の会合などへの訪問を主にしていた頃は、県内の方の利用が多かったのですが、現在オンラインサービスを利用されているのはほぼ県外の方。そして、ターゲットを絞ったわけではありませんが、新規の方なんです。配信開始から、すでに10回以上利用してくださっているリピーターの方もいらっしゃって…うれしい限りです。 また、一度劇場に来てくださったことのある県外の方がオンラインで利用するケースもあって、移動や宿泊といった費用や感染リスクを考えるとこの時代に合ったサービスなのかもしれませんね。オンラインのお客様が、状況が落ち着いた頃に劇場に足を運んでくださることも期待できると感じました。

「臨場感が薄れてしまうのでは」という不安は、オンラインであっても対面を意識できる工夫で解消。舞妓たちがコミュニケーションをとりやすいよう、配信中は鑑賞される方の様子を大型スクリーンに映し出している。

オンライン配信を始めた後に気づいたことは。
今まで提供してきたものが対面によるサービスだったので、オンライン配信を開始する前は、「オンライン配信の需要があるだろうか」、「今までと同じように利用される方に喜んでいただけるだろうか」という不安がありましたが、配信回数を重ねるごとに改善点を解消し、見せ方の工夫を凝らしたことで十分に喜んでいただけることに気付きました。

オンライン配信サービスを開始する前は、個人の方が顧客のメインになるのではと想定したのですが、始めてみると思いも寄らない依頼を多方面からいただけました。国際教養大学からは、入国できずにバーチャル留学している学生を対象に文化を学ぶ授業に活用いただいたり、旅行会社と協力してバーチャルツアーを行なったり、もともとあきた舞妓との交流を目的とした「お座敷列車」の企画を秋田内陸縦貫鉄道で実施していたのですが、乗車できない方に向けてリアルタイムで配信するなど、一口にオンラインといっても多様なニーズがあることに気づくことができました。

なにより、従来のように踊りなどの芸を披露できない舞妓のモチベーションが保たれたのではないかと思っています。「なんのために練習してきたんだろう」と落ち込むこともありましたが、コロナ禍においても披露する場があったのはありがたかったですね。

柔軟なアイデアと真心のサービスでおもてなし

期待していた効果はありましたか。
オンライン配信という手段であれば、現地まで足を運べない方へもサービスを届けられますし、海外までサービスの対象を広げることができるというのがメリットでした。オンラインという気軽さから若い方にも興味を持ってもらえる機会が増え、期待以上にターゲットの幅が広がりました。
御社ならではの取り組みや強みはなんですか。
これまで介護施設から訪問の需要が多くあったので、コロナ禍であってもその機会を大事にしたくてオンラインでの施設訪問を続けました。私たちは、認知症サポーターとして施設訪問に取り組んでいるので、従来の訪問と同じようにゲームをしたり、レクリエーションをしたりと画面を通じて交流しています。直接ふれあえなくても、わざわざ用意してくれた横断幕やうちわ、そして笑顔から、楽しみにしている気持ちが伝わってくるので、続けていきたいです。

あとは、横のつながりが強みだと思っています。オンライン配信サービスを開始するのにマティログさんに助けていただいたり、コロナ禍で補助金やクラウドファンディングに頼った際にはさまざまな企業に協力いただきました。配信を始めてからもいろいろなコラボの機会をいただけているので、そのつながりを大切にしていきたいです。
今後はどのような展開を予定していますか。
サービスの真髄は変わっていなくて、〈目の前のお客様をいかに喜ばせておもてなしをするか〉ということです。手段や内容はサービス対象に合わせて変わりますが、その気持ちは変わることがありません。オンラインを始めたからこそ気づいたことがたくさんあるので、今後は対面によるサービスとオンラインによるサービスを併用して、よりたくさんの方に喜んでもらいたいと思っています。

従来のように踊りを披露する体験型サービスのほか、あきた舞妓とオンラインで乾杯してトークを楽しめる気軽なサービスも。今後もさまざまな企画を発信していく。

デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
「自分たちはオンラインで活躍する業界じゃない」、「対面だからこその良さがあるんだ」と思っていましたが、いざ挑戦してみるとオンラインとの相性の良さに気付くことができました。わからないことばかりで不安でしたが、思いがけない幅の広がりを見せることがあるので、ぜひチャレンジしてみてください。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • リモートワーク環境整備支援事業費補助金