建築業界におけるデジタル化の必要性を提言
保存・管理の在り方を見直しつなぐツール

村岡建築事務所
代表/一級建築士
村岡 憲司 むらおか けんじ さん

村岡建築事務所

 建設業界で現場管理の職務に就いていた、建築士歴41年の一級建築士が設立した「村岡建築事務所」。定年を前に帰郷した村岡代表が、北秋田市米内沢に8年前に事務所を構えました。建築物の老朽化に伴う改修や解体工事に関わる案件を請け負う中で不便を感じ、デジタルツールの導入を試みました。デジタル化によるメリットを取り入れ業務に邁進する、村岡代表にお話を伺いました。

業務に伴うリスクとストレスを軽減するツール

デジタルツールを導入したきっかけは。

規模が大きかったり構造が複雑な建築物になると、100枚、200枚と多くの図面が必要に。スキャンの手間に加えて、そのコストも大きなネックになっていた。

現在、公共事業に関わる案件を主に担っています。町が管理する建築物の多くはかなりの築年数を重ねており、老朽化に伴う改修や解体工事などの入札案件が多くなっています。改修や解体を行う際に建築当時の図面が必要になりますが、紙の状態で保管されている当時の図面をいざ確認すると、肝心な部分が消えていたり、傷んでいるものが多くありました。
そのような状態の図面を使っての業務はリスクも手間も多く、壊してしまうことを避けるためにスキャンしようと思っても、大きなサイズになるほど特殊なスキャナーが必要でした。1つの建築物に1枚だけで事が足りるわけではなく、規模の大きな建築物になればなるほど、膨大な費用がかさむのです。
それらを解消する手段として、デジタルツールを導入することを決めました。
具体的にどのようなツールを取り入れましたか。
A1サイズに対応する大型のスキャナー、そしてスキャンしたデータを管理するための大容量クラウドサービスを導入しました。

昔は、A1やB1といった大きなサイズの図面が一般的でして、古い建築物になるほど大きく、規模が大きくなるほど図面の枚数が多くなるので、大判サイズに対応する大型のスキャナー導入が必要でした。保存状態が良くない図面を扱うのに抵抗があったので、大判の図面をスキャンして取り込み、デスクトップで確認できるようにすることでストレスが軽減されるメリットがありました。

また、もともと外付けのハードディスクを使っていましたが、スキャナーを導入する際にマイクロソフトが提供するオンラインストレージ「Microsoft OneDrive」を薦められて、今はこちらを活用したデータ管理を行っています。データ保存のためのさまざまなクラウドサービスがありましたが、膨大なデータの保存が必要になるため、容量の大きさが決め手になりましたね。
導入にあたっての課題や不安はありましたか。
機器の導入だったので、購入前の検討が必要だったことぐらいですね。特に大きな課題や不安はありませんでした。導入後も戸惑うことなく、すんなりと切り替えることができました。

手に入れられた最大のメリットは〈安心感〉

デジタルツールを活用してみていかがですか。

スキャナーの導入で図面を扱う負担が軽減。村岡さんは、外注に頼らずトレースも自分の手で行い、一貫して一人で図面を仕上げていく。

導入したことにより、図面の保存や扱いは楽になりました。保存状態によっては、高い解像度でスキャンをかけて取り込んだものであっても、肉眼で確認するよりは劣ってしまいますが、かなり役に立っています。
一方でプロセスが増え、たぶん時間の短縮にはなっていないのが現状です。図面の枚数分のスキャンが必要になるため、図面が増えるほど作業が増えます。さらに、スキャンしたものをトレースする必要があって、そこに最も時間がかかるのですが、やはり人が手をかけなくてはならない工程で、労力が必要なんです。
期待していた成果が得られましたか。
想定通りの成果でしたね。時間がかかることは変わりませんが、古く傷んだ図面を恐る恐る何度も開く作業がなくなったので、だいぶ扱いやすくなりました。オンラインストレージに関しても、元のデータを移行するのには苦労しましたが、ハードディスクのように、衝撃や雷などの影響によるトラブルを気にすることなく使用できるので快適になりました。デジタルツールの導入により、安心感を得られたことが最大のメリットです。

デジタル化してつないでいく貴重なデータ

今後も活用していけそうですか。
設計の仕事は、仕上げはデジタルになりますが、正直なところ下準備の工程は今もほとんどをアナログで行っています。導入してから2年、古い図面を扱う煩わしさが軽減したこと、スキャンした図面をそのままトレースして起こし直すことができるようになったことは、製図の工程に限らず保存・管理においても役立っているので、今後もアナログの良さとデジタルの良さをそれぞれ見極め、上手く合わせて活用していくつもりです。
今後新たに展開することや期待することはありますか。

北秋田市には建築士が少なく、事業の入札に参加する人数は片手で数えるほど。故郷に帰郷した村岡さんは、自身で設計した事務所兼自宅を8年前に構えた。

今、私が主に請け負っている公共の建築物は建ってから時間が経過していることに加え、担当が都度変わるため当時の細やかな状況を知る人や確かなデータが残っていないことが多々あります。さらに、図面がない場合は、実態把握のために必要な調査に伴う労力や費用が依頼する側と請け負う側の双方にとって大きな負担になるのです。
納品したデータを適切に管理してもらうことで、改修や解体などが必要な際に活用することができます。デジタルの力を借りて、今ある図面を丁寧に起こして残していくことで、次世代へ市の財産を託す一助になればと思っています。
デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
私個人に限らず、これからのことを見据えたデータの保存・管理に目を向け、意識改革をしていく必要があると思っています。図面などをデジタル化する義務はありませんが、デジタルツールに頼ることで、スムーズに移行できることもあります。積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • 小規模事業者ICT活用促進事業費補助金(秋田県)