デジタル技術を活用して農業の未来を紡ぐ
多角的なデータ分析で効率的な栽培法を確立

株式会社秋田農販
代表取締役
髙橋 浩行 たかはし ひろゆき さん

株式会社秋田農販
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 測量や土地改良、ハウス設計から農産物の生産・販売まで、農業総合コンサルタント業務を請け負う「株式会社秋田農販」。作物によって異なる栽培環境の最適化をするにあたり、2020年12月よりデータを取得するためのデジタル技術を導入しました。農業従事者が抱えるさまざまな課題を解決するべく、髙橋さんが活用している先進的なシステムとは。

安定と拡大を見据えたシステム導入を推進

どのようなデジタル技術を導入しましたか。

ハウス内のセンサー感知ハブシステムと、ピンポイントで気象データを実測してリアルタイムで把握することができる装置。

ハウス栽培に活用するための〈ハウス内環境データ取得システム〉と、現在地の正確な環境データを取得するための〈ピンポイント気象台システム〉を取り入れました。
導入したきっかけを教えてください。
農業生産物収量の安定確保及び生産地の拡大を目指す戦略の一環です。 当社は、イチゴやキュウリ、トマトなどをハウス栽培しているのですが、デジタル技術を活用した管理で収量を伸ばすことができることを把握していたことから、以前よりシステム導入を視野に入れていました。毎年同じことをしてるだけでは年々変動する環境に対応できず、品質や収量が右肩下がりになることが安易に予測できました。ブランド品種の品質を確保する上で、必ず環境調整技術が必要になると判断し、アナログではないデジタルデータを取得したかったのです。地域環境に臨機応変に対応する作物別の「環境レシピ」を開発するために導入を決めました。
どんな課題がありましたか。
センシングシステムは、農業分野においてまだまだ未知の分野であり、設備を充実させたとしても、取得したデータを活用して解析する技術が追いつかないのではないかという懸念がありました。また、設備を導入するための経費が大きな課題でした。利用価値や解析方法を従業員に教育するための人件費、教育にかける人材育成時間がネックでしたが、支援制度の補助金を活用して導入することができました。
システムは、すべて自社で導入したのですか。
ビジネスパートナーの総合重工業メーカーに支援してもらいました。農作物に対する栽培技術や制御技術の活用の仕方がとても現実的だったこと、そして学びを深め開発に注力していたことから、今回のシステム導入の際も心強かったです。今後も企業のさまざまな技術が農業界へと進出し、現場で活用されていくことを実感しましたね。

データ解析で明確になった目標と適切な判断

デジタル技術を導入してみていかがですか。

ハウス内の至る所に、温度・湿度・二酸化炭素濃度を計測するためのセンサー、水分を計るための土壌センサーが設置されている。

これまでは二酸化炭素濃度や土壌の水分量を計るためにアナログのセンサーを使っていたのですが、今回のシステム導入で、より効率的な栽培法を確立できたように感じています。データから取得したグラフの解析によって、最適な光合成時間や各環境の必要量、不足量などが明確になり、生産量の目標に対しての燃料制限など、光熱費のバランスをとることができるようになりました。
想定していなかった使い方やメリットはありましたか。
かつては栽培過程においての光合成時間、日があるうちの温度や湿度、二酸化炭素量などの管理に1日中追われていました。日照時間が多いからとむやみに水を与え続けたり、冬にやみくもに光照射を行ったり…、胸を張って効率的な管理とは言えなかったです。しかし、今回のシステム導入で時間帯による必要性の有無がはっきりし、無駄な作業や投資がなくなり、メリハリのある管理体制を整えることができました。また、データ解析を通して栽培に対する目的や作業内容明確になったことにより、従業員の栽培意欲の向上や、労働時間の短縮にもつながったことは想定外の収穫でした。
御社ならではの工夫は。
自然エネルギーを利用した脱炭素農業※に取り組んでいます。限られたエネルギーを有効活用する培地農法を開発しましたが、このシステムの導入より、更なる燃料の削減やデータ解析を取り入れた栽培技術が向上するなど、〈デジタル脱炭素野菜〉としてのブランド力を得られたと思います。

※地球温暖化の原因の1つである、温室効果ガスの排出量をゼロとする農業。

効率的な運用を可能にしたシステムの展開を

廃棄物となるもみ殻を活用した先進的な農業を行ってきた同社のハウスで、実を赤く染めるミニトマト「恋ベリー」。エコな燃料と効率的な管理により、品質と収穫量がアップした。

期待していた効果は得られていますか。
導入してからの1年は、データ集積及び解析指導を中心に従業員への教育に力を入れました。本年度より導入を始めたばかりではありますが、システム導入による成果がすでに顕著に表れています。
例えば、10月に定植して12月下旬から収穫していたトマトは、システムを導入してからは同じ10月の定植ながら11月上旬には収穫が可能になり、データ利用による効率的な時間栽培による収穫量アップにつながりました。また、外気温の影響もあるかとは思いますが、室温調整のための灯油に関しては昨年の半分程度の使用量になり、燃料などのコスト削減に確実に結びついています。

栽培地のハウスそばに設置した〈ピンポイント気象台システム〉を活用し、気象チェックをする髙橋代表。外出先でもスマートフォンで確認し、ハウス内の環境調整にデータ活用することが可能に。

デジタル技術を活用して、今後はどんな展開を予定していますか。
導入したシステムをデータ取得の手段としてだけではなく、より有意義に活用していきたいと考えています。今後は、レシピ入力によって自動栽培が行われるシステムへと展開し、さらには不測の事態でも対応できるよう、スマホなどと連携した外部入力システムの仕組みを構築して、国内のみならず海外のハウス管理も可能になるよう運用したいと思っています。
デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
農業従事者に向けてのメッセージとなりますが、少しでも早くデータ管理による農業技術者の育成やシステムの導入を考えてみてはいかがでしょうか。年々変化する気象環境に臨機応変に対応していかなければ、農産物の生産はもとより、経営が成り立たなくなるこの現状に立ち向かうことはできません。持続可能な農業のため、日本の食のため、未来のために共に前へ進みましょう。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • IoT等先進技術導入実証事業費補助金(秋田県)