県内縫製業におけるデジタル化の実践
〈見える化〉で生産性の向上と効率化に挑む

秋田ファイブワン工業株式会社
代表取締役社長
佐賀 善廣 さが よしひろ さん

秋田ファイブワン工業株式会社
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 メンズ、レディースの高級ジャケットやコートを主力に、日本を代表するトップブランド品の製造を手掛ける「秋田ファイブワン工業株式会社」。異なる素材の特性を生かして扱う感性と高い技術、充実の設備を用いて、高品質なものづくりに取り組んでいます。複数の業務遂行を可能とする従業員のマルチスキル化のため、デジタル技術を活用して生産性の向上と効率化を図る、佐賀代表にお話を伺いました。

生産状況を見える化することで客観的な分析を

どのようなデジタル技術を取り入れましたか。
2021年春から、3つのことに取り組みました。 1つ目は、生産ラインの出来高を見える化する〈人時生産性システム〉の導入です。2つ目が、成果物の中間検査の結果を記録する〈検査管理システム〉の導入です。最後が、タブレット活用による〈ペーパーレス化〉です。

最先端の縫製設備を導入している工場。従業員の多能工化による高い技術力を活かし、高級品に特化した生産体制を誇る。

デジタル化を進めた理由を教えてください。
一番の目的は、ラインバランスの平準化と生産性の向上です。これらのためには、デジタル技術の導入が不可欠と考えたからです。 これまでは、それぞれのラインの管理者が生産状況等を管理する体制でしたが、それぞれのラインのバランスを平準化して全体最適を図るためには、各ラインや個々の従業員の作業状況を見える化することが必要と考えました。また、製造業においては不良率を下げることが重要ですが、不良原因などをデータ化し、そのデータを分析していくことが改善の近道と考えました。合わせてペーパーレス化により、業務全般の効率化を図ることが今回の取り組みの狙いです。

取り組み状況の共有が従業員のカンフル剤に

それぞれの内容と、その効果について教えてください。

製造の中間に行われる〈検査管理システム〉による、品質チェックモニターの様子。リアルタイムの数値がオペレーターに共有される。

1つ目の〈人時生産性システム〉は、生産ラインの出来高を見える化するものですが、これは製造にあたるオペレーターが成果物を1つ完成した段階でスマートフォンのボタンを押すことで出来高や作業時間を記録するものです。各オペレーターが入力したデータを集計したものを現場においてあるデジタルサイネージに表示しています。これまでは、ラインの管理者が作業状況を見て各オペレーターをサポートしていましたが、このシステムを導入したことにより、「どの工程に負荷がかかっているのか」を客観的に把握できるようになりました。また、オペレーターが生産状況をリアルタイムで把握できるようになったことが製造現場の良い刺激になり、ロスをいかに削減していくか合理化を図る手段として導入効果があったと思います。
2つ目の検査管理システムは、いかがでしょうか。
これまで検査記録は紙で管理していましたが、検査管理システムを導入し、デジタル化しました。このシステムは、検査結果をタブレットで入力することで、検査の成績などをリアルタイムで集計することができます。製造工程での不具合が、どの段階やどの工程に原因があるか明らかになるので、業務改善につながっています。
3つ目のペーパーレス化は、いかがでしょうか。
これまでは仕様書や指示書などをすべて紙で作業現場に貼り出しており、内容に変更がある度に紙を出力して一人ひとりに情報共有を図る必要がありました。タブレットによるペーパーレス化を進めたことで、より早く情報共有することが可能になりました。定期的な会議で使用する進捗状況の資料なども一元管理できるようになるなど、管理者の業務の省力化につながったと思います。
これらの取り組みを通して、社員が一丸となって不良率改善や生産性向上に取り組む姿が見られるようになりました。おかげで残業時間の削減にも役立っていますね。
導入は、順調に進みましたか。
順調に進みました。当社の社員の平均年齢は40歳くらいですが、普段からスマホやタブレットを利用していることが、現場がすんなりと適応することができた理由だと思います。また、ペーパーレス化は、現場からの要望を踏まえて実現したものでしたので、その点が良かったと思います。
導入前に思い描いていた姿に近づいていますね。

従業員一人ひとりが活躍できる環境づくりにも積極的。業務の効率化は、生産性のアップに限らず良い成果をもたらしている。

「見える化」による情報共有が図られたことで、生産性の向上と作業の最適化に結びついているのを実感しています。さまざまな製造業の中でも、縫製の現場では特に女性が活躍しています。当社においても社員の8割を女性が占めていることから、女性が働きやすい環境を整えるべく、設備投資などのさまざまな策を講じてきました。特に子育て世代は時間外労働が困難なため、残業などの負荷を回避するべく業務の効率化を進めてきました。縫製業だけの話ではありませんが、生産業務が流れ作業のため、オペレーターの目線では、いま自分がどのくらいどのペースで進められているのか明確にわからなかいことがあります。今回のシステム導入により、明確な数値で状況確認ができるようになったことで、自身の進捗状況とラインバランスを自然と意識し、業務に励むことができるように整ったと感じています。

更なるデジタル化に向けた今後の展望は

今回のデジタル技術の導入により、システム化と相性の良い業務と手仕事が望ましい業務を客観的に判断することができるようになった。

今後も、デジタル化を進めていきますか。
原材料費をはじめとする経費は増え続ける一方で、働き手不足など製造現場では多くの課題を抱えています。今回のシステム導入は、デジタル化と相性の良い業務の部分だったと思います。一方で、最終工程後の検査などは、ある程度の経験値を持った人の手や目視によるチェックが不可欠であると考えています。今までの固定概念に縛られず、ロスをいかに削減していくか見極めて、デジタル技術の活用も1つの手段として、合理化や効率化を図っていきたいと思います。
県内事業者が、デジタル化を進める上で必要なことは。
今回のシステム導入にあたっては、デジタル化による効果がどの程度で表れるか、導入してみないとわからない部分がありました。ある程度リスクを伴う初期投資が必要なことがネックでしたが、その点については、県の補助制度によりクリアすることができました。我々のような中小企業は、そういった制度によるサポートが不可欠だったなと思います。
デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
私たちにとってデジタル技術の活用は、不慣れな分野ではありましたが、思っていた以上に容易にシステムを導入でき、費用対効果が得られています。
今回導入した検査管理システムは、県内縫製業において当社が第1号として導入しました。今後は、アパレル産業振興協議会の研修会などを通じて情報共有の場を設け、このような取り組みを業界内で横展開していきたいと考えています。
また、他の業種の方にも、デジタル化と相性の良い業務を見つけて、デジタル技術を活用していってほしいですね。

取組の様子を動画で見る

秋田ファイブワン工業の取組の様子は、動画でもご覧いただけます。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • IoT等先進技術横展開事業費補助金(秋田県)