ホテル業界の業務にフィットしたデジタル化
長く続いてきた慣習を能率的にアップデート

株式会社協同企画(湯沢ロイヤルホテル)
常務取締役
京野 健幸 きょうの たけゆき さん

株式会社協同企画(湯沢ロイヤルホテル)
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 湯沢ロイヤルホテルを運営し、冠婚葬祭や宿泊、レストランなどの事業を広く手掛ける「株式会社協同企画」。昨今の感染症拡大の影響を受けて、日々変化する情勢に対応するべくオペレーションを根本的に見直し、デジタル技術を活用して生産性の向上に努めました。幅広い業務を円滑に展開するべく京野さんが進めた、ホテル業界に寄り添うデジタル化とは。

効率化につながる最適なツールをチョイス

近年、複数のデジタルツールを導入したそうですね。
2020年春に、PMS・ホテルシステム・宿泊管理サービス「Staysee(ステイシー)」の運用を開始しました。同時期から「Google スプレッドシート」を管理・共有の手段として宅配弁当の手配表に活用し、2021年冬には宴会チャートやシフト表も紙からスプレッドシートによる管理へ移行しました。2020年秋には、従業員間のコミュニケーションツールとして、ビジネスチャットの「LINE WORKS」を始め、2021年2月からは、口座などの各種サービスと連携可能なクラウド会計システムを取り入れました。

「Staysee」導入以降、インターネットでの予約を促進。ホームページからの宿泊予約を少し割安に設定している。また、「Google スプレッドシート」で日ごとの宅配予約を管理し、情報の共有を図っている(右)。

順を追って導入に至った経緯を教えてください。
感染症拡大が続く中、宿泊や飲食といったホテル業界におけるサービスの需要が落ち込み続けています。これを機に、従来のオペレーションを根本的に見直して〈生産性を向上する〉、〈効率化を図る〉という2つの課題を掲げ、デジタルツールの導入を決めました。
導入した内容について詳しく教えてください。
かねてより宿泊業向けシステムを運用していたのですが、システムをインストールしたPCでしかログインできなかったり、手入力による手間が多く不便を感じていたので、その業務にかける時間と労力を削減しようと試みました。紙チャートと予約台帳とによる2重管理を行わなければならなかったのですが、「Staysee」でのシステム管理へ一本化し、紙を廃止。インターネットにさえ接続すれば、どこでもどんな端末でも操作や管理ができるため、リアルタイムでの状況把握が可能になりましたし、大手旅行サイトを介した予約であっても、顧客データがそのものが宿泊予約の記録に反映されるようになりました。
また、宅配手配表や宴会チャート、シフト表なども紙での管理・共有をしていましたが、宅配であれば誰に何を何時にどこに届けるか、宴会であれば空き状況や予約内容について、管理・共有を効率化するため、「Google スプレッドシート」を活用して、情報の一元化を図りました。さらに、請求書など各種書類の発行に関しても紙管理の廃止を進めるべく、インターネットバンキングやクレジットカードの利用情報に連携するクラウド会計システムを導入しました。

長く続けてきた紙ベースでの管理。手書きによる業務の負担は大きかった。

デジタルツールの選定はどのように進めましたか。
今回のデジタル技術の導入にあたっては、ベンダーや企業に頼らず独自に調べ、誰もが使いやすい汎用性の高いツールを選びました。導入にあたって小規模で試験的な運用をして、当社の業務にマッチしたものであると判断してから本格運用を進めました。
当社には65名の従業員が在籍していますが、20代〜70代と年代に幅があり、スタッフによってデジタル技術への習熟度が異なるために、どのようなツールでデジタル化を進めていくか慎重に選定しました。コミュニケーションツールに関しては、LINEユーザーが多いことから適応しやすいだろうと「LINE WORKS」を、情報共有に関しては、管理を一元化できる無料ツールを使わない手はないと判断し、「Google スプレッドシート」を選びました。また、宿泊管理サービスやクラウド会計システムは、機能的でありながらもランニングコストが抑えられるものを選定しました。
そして、いずれも全社員が滞りなく活用できるよう、安定したアクセス環境の確保が不可欠になるため、館内のアクセスポイントを増やしたり、ログインが集中することを想定してサーバーを強化したりと、インフラ環境の整備に補助金を活用しました。
導入にあたり工夫したことは。
可能な限りコストをかけず、デジタルツールの導入を進めたことが一番ですね。 正直なところ、いまだ感染症拡大が続く状況下で、目に見えない投資に余裕がなかったこともあり、費用面に関してはシビアになりました。月額制のシステムを見直したことによって、ランニングコストを抑えられています。もちろんシステム化に伴い、ペーパーレスの促進で紙の削減にもつながっています。
そして、今までの体制に慣れている従業員がスムーズに適応できるよう、移行や導入の順番に気を配ったことです。特に、創業時から続けてきたスタイルで行われてきた宴会業務からテコ入れをするのは抵抗があると考え、5年ほど前からサービスを開始した宅配業務からスプレッドシートによる管理に切り替えました。比較的新しい事業だったので情勢の変化に柔軟に対応することができましたし、人が集まる機会が減っている昨今、「来てくれないなら届けに行こう」という思いからスタートした事業ながら、順調に伸びを見せていたため先行して導入しました。この宅配事業の管理が上手く機能したため、宴会チャートやシフト表もスムーズに移行をすることができたように思います。

スピーディーな情報共有で業務を円滑に遂行

デジタル技術の導入後はいかがですか。
宿泊管理やコミュニケーションのいずれも、紙での共有や口頭でのコミュニケーションをベースにしたオペレーションに慣れていたため、当初はデジタル技術の導入を慎重に進める必要があるように感じていましたが、いざ活用を開始するとすんなりと常態化することができました。一番効果が感じられているのは、情報のオープン化により、コミュニケーションが円滑になったことです。共有速度がグンと上がり、どの業務においても効率化を図ることができていますね。
想定していなかったメリットはありましたか。

宴会場や厨房など、ホテルのどこに居ても、スマートフォン1つで状況が確認でき、それに応じた情報の共有がスムーズに行える。

宿泊システムを移行したことで、売上や受注状況などをデータとして把握できるようになったことは、当初想定していなかった効果でした。コミュニケーションの在り方が変わりましたし、以前の紙による管理体制では資料にするまで数字として状況が明確にわからなかったのですが、システム化したことでアクセスしやすい状況になって、自分ごととして捉えやすくなったことはメリットでしたね。誰もがいつでもリアルタイムに見られるので、数字に対する興味や関心が高まったこともあり、自ら興味を持って状況確認を行う姿勢が見られるようになりました。自然と業務に関する会話のタネが生まれ、スタッフのモチベーション維持につながっていることをうれしく思っています。
導入時に期待していた以上の効果が得られていそうですね。

ホテルメイドの味わいに定評のある同社。宅配サービスの普及とデジタル化による効率的な管理で、コストを削減しながらもそのクオリティを広く届けることができている。

はい。さまざまなデジタルツールの導入で、情報共有の在り方や業務のカタチが大きく変化しました。手作業で入力していたものが自動化されたことで生産性が向上しましたし、情報共有のほか、コミュニケーションについても効率化を図ることができました。単純に今まで労力が掛かっていた業務から手を離せたので、決して「自動化で仕事が楽になったね」という感想で終わらず、今までそこに費やしていた時間を新しい商品を生み出すことや、企画やPRのために使っていきたいと考えています。
また、コミュニケーションツールとして導入した「LINE WORKS」の気軽さが、上手く機能していますね。以前は日報の提出手段がメールだったのですが、「LINE WORKS」に切り替え、「報告するほどでもないと思うことでも気軽に書いてほしい」という要望を従業員に伝えたところ、今まで耳に入ったことのないような細かなこともすすんで発信してくれるようになりました。そこから得られた情報から、事業展開のヒントやアイデアが見つかることも多々あります。経営者と現場のスタッフをつなぐコミュニケーション手段として、想定以上に使い勝手の良さを発揮していますね。

ホテル業界におけるデジタル化をさらに促進

デジタル技術の展開について、今後予定していることはありますか。
当社の取り組みは、ホテル業界におけるデジタル化のため、どこまで汎用性があるかはわからないですが、同業他社へのモデルケースになればうれしいですね。
デジタルツールを用いた業務改善については、必要に応じて当社でも継続していきますが、今後はデジタル技術を活用した当社の実例や実績を広く伝えていくことを視野に入れ、業務改善のノウハウを横展開していきたいです。大手やチェーン系ビジネスホテルなどであれば、すでに革新的なデジタル化を進めていることと思いますが、中小施設であれば、まだまだシステムの普及はしていないように感じています。将来的にデジタル化が加速することを想定し、業界としてより大きく多角的に発展するためにはそういった取り組みにも励み、つながりを大切にしていければと考えています。
デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
当社ではデジタルツールを本格導入する前に、さまざまなビジネスチャットやコミュニケーションツールを試し、今活用しているデジタルツールに決めました。社員の年齢層も幅広く、全員のデジタルリテラシーが高いわけではないため、背伸びしすぎないものが合っていたようです。難しく考えるよりもまずは小さく出来る範囲で試して、上手くいったら徐々に活用の幅を広げてみてはいかがでしょうか。長く続いてきたものに対する変化への恐れは誰もが抱えやすいものですが、イメージするよりも実際に行動へ移すほうが、身の丈に合ったデジタルツールに早く出会うことができます。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • リモートワーク環境整備支援事業費補助金(秋田県)