クラウドサービスとRPAの活用
変化に対応できるシステム構築を実現

株式会社Local Power
ソリューション事業部 DX推進室 室長
棚谷 健一 たなや けんいち さん

株式会社Local Power
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 秋田に眠る人材・技術・地域資源を掘り起こし、社会貢献するモノやサービスを提供する「株式会社Local Power」。除菌消臭水「iPOSH」をはじめとするプロダクト、飲食店や体育館、車のシェアリング、ITや人材を活用した地域課題ソリューションなど、その事業は多岐に渡ります。製品の受注業務効率化のためのRPA導入を皮切りに、自社のDX推進を任された棚谷さんはシステムを横展開して、他社へもRPAなどのIT導入サービスを進めました。

kintoneとRPAで定型業務を自動化

導入したデジタル技術の概要を教えてください。
1つ目は、ロボットによる業務自動化のためのテクノロジーである「RPA」です。主に受発注業務を、パソコンやサーバ上にあるソフトウェア型のロボットが代行し自動化します。
そして2つ目は、仮想統合基幹業務システムの「仮想ERP」です。業務改善プラットフォーム 「kintone」を基盤に、さまざまなクラウドサービスを組み合わせ、データ連携したシステムを実現しました。
いつからデジタル化を進めたのですか。

業務改善プラットフォーム「kintone」の管理画面をチェックする様子。

2年ほど前にまずは「kintone」を試験的に導入しました。その後、会計ソフトや勤怠管理ソフトを使い始め、それぞれをつなぎ、最終的な今の仕組みを構築するまで1年ほど時間をかけました。
導入したきっかけは何でしたか。

日本のみならず、海外へも輸出されている「iPOSH」。コロナ禍において生産が追いつかず、一時品薄になったほどだった。

昨今の感染症拡大において、自社開発製品の「iPOSH」の需要が一気に増えたことです。受注量はもちろんのこと、それに伴う業務量も大幅に増加しました。限られた人員で業務をこなすためには既存の体制ではままならず見直しを図ったところ、注文を受けてから、受注情報、送り先、送付伝票…と、受注先や送り先が同一である案件がほとんどでありながらも、最大4回ほど同じデータを手入力してることが発覚したのです。このまま業務が拡大し続けるであろうことを見越し、定型業務を自動化することが急務になりました。
基幹システムを構築しない限り、同じ情報を何度も入力しなければいけない。いざこのシステム導入を検討して要望を盛り込んだ見積もりをとったら、ざっと2,500万円にもなる膨大な金額に愕然としました。その上、それだけの初期投資をしても、法改正などに対応するとなると、その都度経費がかさみます。使うだけ苦労も増えることが想定できたので、状況に合わせて柔軟に対応できるシステム構築を考えました。
そこからどのようにデジタル化に至ったのでしょう。
独自にカスタムできるもの、かつ状況変化に臨機応変に対応していけるものを求めた時に、さまざまなクラウドサービスと自動連携できる「kintone」を基盤に、クラウド会計ソフト「会計freee」や勤怠管理システム「ジョブカン」などの必要な「SaaS」を連携し、自動連携できないものはRPAを活用して、アナログ式につなぐことを思いつきました。自社にマッチするものを追求して自分たちでイチから構築しなくても、サービスとして安く提供しているクラウドサービスを活用することが、利便性の高いシステムの早期導入につながります。法改正の際はクラウドサービス側で改修しますし、新しいシステムを導入する場合も「kintone」で柔軟に連携することが可能です。そして、自動連携できずに手入力やコピー&ペーストが必要な部分をRPAで補って自動化することにしました。
導入にあたり、課題になったことは何ですか。
ロボットに適した業務の選定とロボットを作成する担当者の育成です。
それには専任が必要でした。効果的な活用のためには現場の業務を理解しつつ、相応のスキルを持つ人が必要です。当社ではRPA専任として1名(非エンジニア)を採用し、ロボットづくりの勉強に1年間専念してもらい、自社で作れるよう体制を整えました。

効率化のみならず人為的ミスをデジタル技術で防止

デジタル技術を活用してみていかがですか。
目に見えて、業務の工数削減につながっています。また、これまでは「手間が増えるから」と、半ばあきらめていたデータの〈見える化〉なども、ロボットが集計をすることで実現することができました。
御社ならではの工夫点があれば教えてください。
先にも触れましたが、専任の担当者を割り当てた点です。現在、担当者は北海道在住でリモートで業務を行っています。子育て中ということもあって時短勤務をしていまして、採用時は素人でありながらもロボット作成の専任として学びを深め、このロボットが上手く機能している今は、システムエラーの原因究明や修正を担っています。
また、IT人材が居ない中でRPAを導入した実績を生かし、RPA導入を支援する事業を展開していることも当社ならではだと思います。
想定していなかったメリットや発見はありましたか。

ソフトウェア型ロボットの設計図。「何時までに、何の検索をかけて情報を抜き出してください」といった指示をロボットに出している。

人間の行う業務をロボットが監視して、ミスが発生した際にバックアップするという活用の仕方です。
はじめは、人の仕事を代行してくれるのがRPAで、自動化に適した業務をいかに絞り込むかということに軸を置き、人の手では時間がかかる単純作業の効率化を図っていました。手間を削減して業務を効率化するものと我々は捉え、それに即した活用をしているわけですが、当社でシステムにデータを取り込む作業中にアップロードしたデータの中身にエラーがあり、それを見落としたという事例がありました。データの取り込みが未完了のまま、翌々日まで持ち越してしまったのです。「人為的なミスがあるのはしょうがない。でも、RPAでそのミスをなんとかできないか」という声が社長から挙がりました。
そこで、ミスが発生した際にRPAでフォローアップする仕組みを自社でつくりました。自動でチェックをして、エラーがあればメールで知らせてくれるというものです。今までは効率化に特化して活用法を見出していましたが、アナログとデジタルが密接に関わり合いながら業務を遂行している以上、フォローアップするという使い方もあるというのは大きな気づきでした。さらに、一回ミスをすると一週間ミスを指摘し続けるという仕組みにしたため、ロボットにずっと叱られている感覚になります。「もう指摘されることがないように業務にしっかり取り組もう」と身が引き締まり、このロボットの導入によって業務の精度が上がっています。ロボットは効率化によって人の業務を奪うのではなく、人がより付加価値の高い業務を行うための時間や機会を与えてくれるものであると実感しています。

経験や実績を強みに業務整理や効率化を支援

期待していた効果は得られていますか。
DX推進に取り組むスタッフたちが、要望や要求に応えるべく頑張ってくれていることもあり、期待以上の効果が得られています。
現在、受発注の業務に関しては、従業員数をしのぐ数のロボットが稼働しています。工数削減もさることながら、ロボットがなければ実施することができなかった業務に取り組むことができています。売上は約4倍まで膨らみながらも、従業員数を増やすことなく円滑な業務を行っています。受注業務に関していえば、その時点で約75%の業務削減を実現したことになりますし、さらには残業時間も減少しました。現場のスタッフたちからは、「体感で6割くらいは業務をスリム化できている」との声がありました。
これからデジタル技術のさらなる展開を予定しているそうですね。
社内のことで言えば、デジタル化による業務の効率化をよりブラッシュアップしていくこと。ロボットの枠を広げて、手書きや印刷された文字を読み取り、文字データに変換するOCRにAI技術を加えた「AI-OCR」を導入予定です。FAX注文に関しては、転記業務などでミスが起こりうることが多く、業務の効率化と精度向上のために、近い将来は受注ルートをウェブに一本化したいと思って動き出しています。イレギュラーで電話注文などを継続することもあるかと思いますが、9割ほどを電子化できれば圧倒的に効率が上がります。
また、もう1つはRPA導入の推進です。パッケージ製品ではないので、当社のシステムをこのまま提供するのは難しいですが、当社が業務にあたる中で培ってきたスキームを汎用化させて、自社で業務改善できたことを横展開していきたいと考えています。その強みとしては、“さまざまなルートで注文を受けて、在庫を管理して、出荷する”。その一連を事業会社として当社がデザインしてシステムに落とし込んでいくので、実用性があるということです。経験や実績を強みに、業務整理や効率化の支援に取り組んでいきます。医薬業界との取引が多くある中で、旧態依然のシステムで運用している企業が多いように感じています。当社に限らずどの企業も、さまざまな業種と連携して業務が成立しているために、誰かがITに弱いとデジタル化を進めても上手くお互いが機能していかない。当社を取り巻く業界、ひいては日本全体でデジタル化を進めなくてはならないと感じています。
デジタル技術の活用を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
秋田は全国からすると、まだまだデジタル化が進んでいないように思います。まるで先進技術のようにも捉えられているRPAですが、最大限に活用するためには、そもそもの業務のデジタル化が必須です。その上で残るアナログ世界とデジタル世界の間を埋めてくれるのがRPAであると捉え、ベースとなる業務のデジタル化を検討いただきたいです。また、RPAは人の業務を奪うのではなく、人がより生産性の高い業務に従事できるよう導くためのツールと考えていただきたいと思います。
「kintone」と「会計freee」の導入に支援制度を活用したこともあり、当社では当初の見積もりに比べると、約10分の1程度のコストに収めてシステム導入をすることができました。もちろんベンダー任せではなく、当社に優秀なエンジニアが居たからこそのことではあります。売上が4倍になったからデジタル化を始めたわけではなく、先行して準備を進めていたため、増え続ける需要に合わせて対応することが可能でした。新しいシステム導入には、現場スタッフからの反発も起こりえますが、テスト運用などを通して全員で検討し作り上げることで、その戸惑いは解消されました。構想を作り上げる以前に、万全な準備と助走期間が不可欠です。早めの準備と導入を検討してみてはいかがでしょうか。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • 令和2年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金 ※freeeとkintone