介護される方・する方にやさしい商品開発
尿量の見える化で排泄ケアをサポート

株式会社秋田テクノデザイン
代表取締役
伊藤 毅 いとう たけし さん

株式会社秋田テクノデザイン
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 電子機器・電子部品の設計などを手掛ける「株式会社秋田テクノデザイン」は、十数年前に介護の分野に着目し、デジタル技術による排泄感知システムの開発に踏み切りました。そして3年前、思いもよらず商品のモデルチェンジに取り組むことになります。代表の伊藤さんに開発秘話や商品への思い、その効果について伺いました。

介護の困りごとを解決へと導く先進システム

デジタル技術を活用してどのような商品を開発したのですか。

介護に特化した排泄感知システム「しらせるぞう」です。尿取りパッドに独自のセンサーを貼り付け、排尿後の尿量を無線通信でパソコンやスマートフォン等の画面にリアルタイムに表示することができます。
排尿量のリアルタイム把握により、定時のオムツ交換から必要に応じたオムツ交換、いわゆるオムツの随時交換に移行でき、利用者の不快感の軽減、清潔維持が可能となります。随時交換になると、利用者は夜間の定時オムツ確認で起こされることなく睡眠の質の改善にもつながります。また、スタッフは、オムツからの排尿・排便漏れを回避することで、着衣やベッドシーツの交換作業がなくなり、負担が軽減されます。さらに、利用者ごとの最適なオムツ選択と交換頻度の軽減により、経費削減につながるのも特徴です。

「しらせるぞう」は尿とりパッドにセンサー、おむつ外側に送信機を取り付ける仕組み。センサーで感知し、おむつ交換の必要性をWi-Fiを通じてパソコンなどに素早く通知する。

商品開発のきっかけを教えてください。
実は、今から12年前にこの「しらせるぞう」の前身を作りました。
会社設立直後のリーマンショックで、電子機器設計の技術を生かした自社商品を急いで作らなければならないことから、市場調査を実施し、介護・医療に特化する方向性を検討していた中で、母親の在宅介護を通し、排泄処理が大変であることを身をもって経験しました。自らの排泄状態を知らせる機器があれば便利だと考え、設立翌年に初代の排泄感知センサーを開発・販売しました。
初代のセンサーから「しらせるぞう」の開発に至った経緯は。
初代は尿量を精度良く測るというよりは、大体このくらいという程度で3段階に区別し音声で通知するというもので、我々が望むものを作れる技術を持った国内工場をいろいろ探して、福島県の工場に製作を依頼しました。しかし、販売を開始した矢先に、東日本大震災で工場が被災してしまい、販売を中止せざるを得なくなりました…。
その後3年前に、宮城県の介護ロボット協議会より「排泄感知システムをもう一度作れないか。少しモデルチェンジして排泄のアセスメント(分析評価)ができるようなものを作ってもらいたい」との問い合わせがありました。幸いなことに、当時センサーを製作していた福島の工場は製作できる状況に回復したので、新たなセンサー製作に対する協力を取り付け、今のモデルを作ることになりました。
改めて、介護のどんな課題を解決したいと思いましたか。
初代の開発時、介護施設を経営している友人に「介護ではどういうケアが大事なのか」と聞くと、「食事・排泄・睡眠・入浴の4つだ」と言われました。その中でも、機械に頼ることが難しい排泄の分野に着目して開発したわけなのですが、十数年経ってもその状況は何も変わってなかったんです…。改めて、市場に出回っている機器や排泄ケアの課題を介護施設にヒアリングしたところ、排尿量把握、排便との識別ができるシステムは無く、相変わらず人の手に頼るルーチンワーク的な排泄ケアで、利用者本位のケアではないといった課題が浮き彫りになりました。
これにより、12年前に開発したシステムを改良し、尿量を計測できる独自センサー、独自の計測アルゴリズムの構築に加え、無線を利用し、パソコンやスマートフォンに排尿データをリアルタイムに送信するための、小型・薄型・軽量で長時間利用できる無線送信機の設計開発が必要になりました。
以前より高性能な製品が作れる確信はありましたか。

7割くらい自信はありました。十数年前の経験がベースとしてあるので、あとは「使いやすいものにする」ことをクリアできたら良いと考えました。そのために、秋田県産業技術センターに相談しました。十数年前のものを機能化しようと、センサーを自分なりに勉強し、センターの担当者の小笠原さんにも知恵を絞っていただき、連携をしてきました。

小笠原:当センターで、土の中の水分量を測るという取り組みを行っていた中で、そういった技術を応用しておむつの中の水分量を測ることを目指して3年前から共同研究がスタートしました。

利用者ファーストで回路や無線通信を共同研究

商品の工夫したところは。

利用者が電池を充電する負担の軽減を考慮し、二次電池を用いて連続使用可能時間を60時間とすべく、回路面、無線通信面で工夫を凝らしました。
開発した独自の排泄センサーは、着用する方の違和感や、使い捨てが故に高価であってはなりません。センサーといっても一切電子部品はなく、導体という黒い線1本1本で排泄物を検出します。そのため、センサーは層構成に工夫し、髪の毛の太さ程度の厚さで表面に不織布を施しました。

センサーは誰でも簡単に尿取りパッドに貼り付けられ、可燃ゴミに出せるので、取り扱いがラク。センサーが捉えた排泄から複数の電気的な信号を抽出し、その信号から排尿量を把握するとともに、排便と識別するために、独自のアルゴリズムを構築している。

特に苦労したことは何でしたか。

尿取りパッド吸収体には尿道のためにスリット加工されているタイプ、ホールがあるタイプなどさまざまあり、電気信号の出方が変化するため、その電気的信号の特徴をつかむために実験を繰り返し、尿量把握アルゴリズムを展開することになります。排尿に見立てた液を幾度もセンサーに流し、再現性がとれる液の垂らし方をしては計測するなどその妥当性を確認する実験、検証に多くの時間と考察を費やしました。

小笠原:構造や素材など、尿取りパッド吸収体はメーカーによって異なります。そのすべてに対応しなければならなかったのは大変だったと思います。

送信機の無線モジュールも秋田県産業技術センターと相談して選定しましたが、特殊な装置のため使いこなすのが困難であったことから、通信に詳しい方の力を借りました。

小笠原:ネットワークに熟知しているスタッフを交えて、通信トラブルの時には何が原因だったのかなどを解析してきました。

共同研究のメリットはどんなところですか。

小笠原:送信機にセンサーを設置しますが、この製品の大きな特徴の一つは、送信機をできるだけ小さくして、付けている人が違和感のないように軽量化することです。そのためには、非常に小さな電力で、絶えず様子を見ながら、排泄された時に送信する技術が必要なことから、低電力でモニタリングしているシステムが必要だと考えました。その辺の回路設計等を含めて一緒に取り組めたことがポイントです。

寝ていても違和感なく、人体に影響のない低電力で動かす場合、電池式で大きめの形状になりがちですが、小さいものでなければ商品にならないと思っていました。

小笠原:情報はWi-Fiで飛ばさなければなりません。絶えず通信しているとバッテリーを消耗するので、排泄を感知した時にだけ通信し、まとめてデータを送ることを考えました。

左が初代、右が後継機「しらせるぞう」の送信機。高性能になり、容量は従来の1/4に!
外れにくいコンパクトさと、センサーが差し込みやすい仕様も重要だったという。

お互い密にやり取りされていたようですね。
開発当時は月1回定例技術会議を行い、我々が取得したデータをセンターの担当者等に見てもらい、お互いに論理的な追究をして、改良点などを出していきました。

正確な記録が介護現場の改革につながる

リリース後の反応や商品への反響はいかがですか。

2021年12月の受注活動開始からさまざまなメディアに取り上げられたおかげで、全国23カ所の介護施設や代理店から問い合わせがあり、潟上市の介護施設や秋田市の障害者施設、宮崎県の特別養護老人ホームで試用いただいています。いきなり購入というのはあり得ないので、試用して良かったら買っていただけるという感じです。しかしながら残念なことに、感染症拡大の影響で施設への出入りが制限され、営業活動には影響が生じています。

小笠原:こういった時代ですから、訪問が難しくても試用いただける施設様は、モニター用のパソコンとネットワークでつないで、実際のデータをこちらでもリアルタイムで見ることができるようにしています。

試用いただいた施設からは、オムツの随時交換により、従来の定時のオムツ交換にあった空振り(オムツ確認するも排泄していない状態)がなくなったことで、「介護スタッフの無駄な動きがなくなった」、「作業軽減につながった」、「スタッフは身体的にも精神的にもゆとりができた」との声をいただいています。

センサーで感知すると、排尿の日時・量・速度などが排尿日誌として自動的にデータ記録される。正確な記録がとれて、手間がかからず、共有しやすいのがポイントで、その人の健康状態を知るバロメーターにも役立つ。

「しらせるぞう」の開発当初に期待していた効果は得られていますか。
はい。前述でも少し触れたように、試用いただいた結果、3つのことが達成できたと評価をいただいています。1つ目は、排泄状態がリアルタイムに捉えられたことで、従来の定時のオムツ交換まで排泄しているにも関わらず放置されるという状態が回避できること。2つ目は、排泄確認の作業が軽減することで、スタッフの負担軽減になること。3つ目は、随時交換により、尿取りパッドやオムツの使用量が軽減できることです。
今後はどんな展開を予定していますか。
この度開発した排泄感知システムにおけるセンサーとアルゴリズムは、排泄ケア分野だけでなく、違う分野でも活用できるはずです。ほかの見守りシステム機器とシステム連携や、ヘルスケア分野でのニーズの掘り起こしなどで、この内容を応用したシステム開発を継続していきたいと考えています。
デジタル技術を用いた商品開発を検討している事業者様へ、メッセージをお願いします。
介護分野での見守り製品にはもちろん、さまざまな分野で無線・センサーを利用した機器やシステムがありますが、大事なのは、必要とされている方へ必要な機能の機器を開発し提供することと考えています。その順番を間違えると、開発する側も事業として成り立たなくなることを自ら経験しているからです。開発には、ハードウェア設計、ソフトウェア設計、ものづくり、検査、システム環境設定など設計業務が多岐にわたりますが、当社のような小規模事業者にとっては、それらすべてのことができるわけではありません。必要なのは、それら各設計業務を束ねるスキルと、それ以上に必要としている方へ届けると言った強い熱意、執念が必要と考えています。それができれば、小規模事業者でも企業間連携によって大企業に負けない仕事ができると考えています。

システム導入を支援した方からのメッセージ

伊藤 毅

秋田県産業技術センター
共同研究推進部
小笠原雄二さん

開発には2つのポイントがあります。一つは回路をコンパクトに、ケースに小さく収めるセンサー構造で、省エネの回路設計部分を協力させていただきました。もう一つは尿量を計測するアルゴリズムです。どのようにしたら量が測れるのかをいろいろなアイデアを出し合い取り組みました。その成果として特許を共同出願し、商品化に結びつけました。

秋田県産業技術センター
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実際に活用した支援制度(補助金など)