培ってきたノウハウと最新機器の合わせ技で
患者様の負担軽減や歯型の作業効率化を叶える

デンタルスタジオ健
代表取締役
斎藤 健司 さいとう けんじ さん

デンタルスタジオ健
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 歯科技工物の製造・販売を行っている、能代市の「デンタルスタジオ健」。技術の向上と研鑽に努めて歯科医院と連携し、一人でも多くの患者様に喜んでもらうことを信条としています。歯科業界のデジタル化が加速的に進む中、技工士歴32年の斎藤さんは歯型模型などの作製のために3Dプリンターを導入しました。その目的とは。

患者様のためにより良い素材や新技術を用いる

導入したデジタル技術を教えてください。

口腔内スキャナー(型取りが要らない治療)によるデータに対応する3Dプリンターです。歯科医院から、口腔内スキャナーでスキャンした口の中のデータ(歯形)を受信後、パソコン内で歯型をデザインしてプリントアウト。それをもとに、差し歯など被せ物を製作します。

3Dプリンター(写真)のほか、スムーズなデータ処理・管理を行う専用パソコン、技術宣伝のためのホームページ制作に補助金を充てた。

導入したきっかけを教えてください。
近年の歯科業界の急速なデジタル化に対応するためです。患者さんへの負担軽減から口腔内スキャナーのようなデジタル技術を導入する歯科医院は増え、それに合わせて技工士業界でもデジタル化が進んでいます。歯科医師・歯科衛生士・歯科助手にとって、型取りの治療時間の短縮や作業ロスの軽減、さらに、型を保管するスペースが要らずパソコンに大量の歯形を保管しておけるなど、多くのメリットがあります。型取りのために患者さんが大きな口を開けなければならない治療時の負担や、型取りが上手くいかなかった時の「もう1回!」という手間が、口腔内スキャナーだと1分程度で作業を終えることができるため、感染症対策の観点からも歯科医院のデジタル化は今後加速的に進むと考えます。
型取りといえば、口を大きく開けて印象材で歯形を採取することが多いですね。

歯科医院は従来、型取りに8〜10分の治療時間がかかり、その後、型取りできた歯形から石膏模型を作ります。私共のような技工所に依頼する場合は郵送等で型そのものを送るため、到着までにも時間を要し、届いたら技工所内のスキャナーで型を読み込み、デザインして被せ物の歯型の完成にさらに4〜5日かかります。一方、歯科医院に口腔内スキャナーがあれば、データが当日のうちにパソコンに届き、即座に確認して被せ物の歯型の作製に取りかかることができます。
技工所はこれまで、型が届くと削ってスキャナーで読み込み、パソコン上でデザインして被せ物の元となる型を作った後、ワックスアップ、埋没、焼却、鋳造などの工程をすべて手作業で行っていました。それが、デザインしたデータを3Dプリンターに送るだけで歯型を完成させることができます。

歯型が届くと、削り出しから作業に取りかかるのが従来の流れ。歯科医院に口腔内スキャナーがあれば、この作業も省略される。

業界内で3Dプリンターの活用は多くなってきていますか。

はい、2年くらい前からでしょうか。入れ歯を3Dプリンターで作る時代になってきました。精度はまだまだですが、歯科技工士が減ってきている昨今、3Dプリンターがあるとラクに製作できます。
私も年齢を重ねるとともにもっと効率的に進められないかと考えていたところ、歯科メーカーの3Dプリンターに詳しい方から親身になってくれる会社を紹介され、2年前に導入を依頼しました。

口腔内スキャナーのデータをソフトウェアでデザインし、3Dプリンターへ送信。物理的に型を受け取り、スキャナーで読み込む工程がカットされ、これまでの歯科技工のワークフローがデジタル化されている。

プリント材の重合にこだわり、高品質の実現へ

3Dプリンターを活用してみていかがですか。

自分がやっていた手作業を機器が行ってくれるため、ワークフローを改善することができ、作業時間をかなり短縮することができています。これまでは1日およそ10本、月に250本もの被せ物を作り、遅い時間まで作業していたり、休日返上で取り組んでいたりしたこともありました。作ったら失敗できないというプレッシャーも減りましたし、心にゆとりが生まれています。
ただ、3Dプリンターで被せ物をきちんと作製できるまでにはかなり時間を要しました。ヒビが入ったり、割れてしまうのです。石膏をいろいろ変え、固めてから金属にするまで熱の上げ方など調整を重ね、精度を高めてきました。最終的に3Dプリンターのメーカーに聞いて光を当てる時間が関係しているということがわかり、その後試行錯誤を繰り返して今に至ります。

デザインした歯型は1本でも、100本でも1時間半くらいでプリントアウト。受注が多いほどその効果を発揮する。スペアを作れるのも3Dプリンターの良いところ。

工夫している点は。

近年、大手の歯科技工士との価格競争の激化により、歯科医師に提示する技工料金が下降傾向にあります。〈作るのであれば質の良いものを〉と研修にも参加していまして、できあがりの形やフィット感、色などほかにはないクオリティを提供したいと思っています。 県内ではあまり3Dプリンターを使った取り組みをしている技工所はないので、さらにこの分野の精度を高め、他社との差別化を図りたいと思います。

3Dプリンターの導入当初の課題は、試行錯誤を繰り返して改善。

3Dプリンターが本領を発揮するのはこれから

導入時に期待していた効果は得られていますか。
先ほども触れましたが、ワークフローは思った以上に改善することができました。 口腔内スキャナーは保険適用外のためか、スキャンデータの受注がまだ少ない状況にあり、歯型が届くことが多いのが現状です。しかし、スキャナーを取り入れている歯医者は増えていまして、現在、メーカーさんにお願いして多くの歯科医院に勧めていこうという動きがあります。保険が適用されたらもっと効果を感じられるようになると思います。
デジタル技術を活用して、今後はどんな展開を予定していますか。
今後の歯科業界のデジタル化はさらに加速するものと考えていて、歯科技工業務においてデジタルワークの重要度がかなり上がると思っています。迅速かつ精密な補綴物(歯の詰め物、被せ物)が提供できるよう、歯科医師、歯科医院のスタッフと歯科技工士が三位一体となり、従来の枠にとらわれない歯科技工物の開発を進めて、患者さんに満足していただけるよう積極的に発信していきたいと思います。

実際に活用した支援制度(補助金など)

  • 令和2年度小規模企業者元気づくり事業費補助金