労働人口減少を見据えたデジタルツールの導入
「使いこなす」ことを目指した価値ある歩みを展開

株式会社あきた創生マネジメント
代表取締役
阿波野 聖一 あわの しょういち さん

株式会社あきた創生マネジメント
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 介護スタッフの働く楽しさや生きがいを大切にする「ひとづくり」により、施設利用者一人ひとりに寄り添った介護を提供する「株式会社あきた創生マネジメント」。労働人口が減少する中でも業務を継続させるため、様々なデジタルツールの活用に挑戦しています。介護現場のデジタル化について、阿波野代表にお話を伺いました。

業務を細分化し様々な業務をデジタル化

導入したデジタル技術について教えてください。

ケア記録ソフト、コミュニケーションツール、インカム、見守りロボット、電子サイン、Web会議ツール、Web会議録、研修記録、勤怠管理、人事評価、会計、書類クラウド管理など、多くのツールを導入しています。基本的には〈紙を無くすこと〉をベースとして動いています。
デジタル技術を導入したきっかけは。

労働人口の減少が著しく、数年前からハローワークに求人を出しても全く反応がないことが続きました。このままでは到底事業を運営していくことが困難な状況が見えていたので、今後どうしたら効率的に業務を遂行できるか考えたときに、デジタル技術の活用が必須であると思いました。

いつ頃からデジタル化に取り組まれましたか。

3年前あたりから業務の細分化に取り組み、〈デジタル技術で対応できるもの〉と、〈絶対に人の手が必要なもの〉を分けてデジタル化を進めてきました。7年前にiPadとケア記録システムを導入した理由は、これからはさらにインターネット時代が進むものと考えたためでした。

デジタルの文字の方が手書きよりも見やすく、書きやすく、さらにこれからは若い人が会社に入ってくると想定していたので、今のうちにデジタル化に取り組むことが大事ではないかと考え、取り組みを進めました。

デジタル化の推進は、阿波野代表自ら進めているのでしょうか。

最初の導入段階は基本的に私が進めていますが、その後の運用は事業所の管理スタッフが担当しています。当初は私が「あれいいんじゃない、これいいんじゃない」と導入を進めてきましたが、今ではスタッフからアイデアが出てくるようになり、その意見も加味しながら動いています。

以前、自分が良いと思って導入したビジネスチャットが現場に馴染まず、なかなか浸透しなかったことがありましたが、その後スタッフが提案した「LINE WORKS」を導入したところ、うまく定着し、今でも活用しています。

デジタル化で記録や情報共有の効率アップ

デジタルツールを導入してみていかがですか。

ケア記録に使っている「ケアコラボ」は、Facebookを投稿するような感覚で記録を残します。手書きでの記録作業は手間がかかりますが、「ケアコラボ」により楽しみながら抵抗感なく記録できるようになりました。動画や写真も載せられるので、利用者様の食事量や歩行の様子が気になった際などに、ポケットからスマートフォンを出して手軽かつ正確に記録・共有できています。

また、ご家族へ情報共有する際、以前は手書きの記録からいつどこで何があったかを探すなどとても大変な作業をしていましたが、今はキーワード検索ですぐに確認できるようになり、業務の時間短縮につながっています。

他には、マットレスの下にセンサーを敷いてバイタルや離床を感知する見守りロボットを昨年導入し、運用はしていますが、まだうまく使いこなせていません。デジタル化の効果を得られるよう、これから頑張って取り組みたいと思います。

事務業務については、全事業所に勤怠管理・給与計算ツールを導入し、クラウドで管理できるようにしています。

ケア記録ソフトはスマートフォンでも利用でき、利用者のそばを離れることなく記録を残すことができる。
見守りロボットは、使いこなすために試行錯誤している段階。

現場スタッフたちの反応はいかがですか。
各施設によってスタッフの年代が異なるため、年代が高いところは導入に踏み込むまで時間がかかったり、「以前の方がいい」と途中で諦めてしまうこともありました。その際は若いスタッフがいる事業所から応援に行き、導入・運用のサポートを行いながら、ようやくデジタル化を進めてきたところです。
デジタル技術は、導入することは簡単ですが、継続して運用しないと意味がありません。運用のためにはスタッフに教えていく事が必要なので、ツールによって専任の担当者を設けることで、操作できなくなった際に相談できる環境づくりを心がけています。
利用者や家族の方から便利になったという声はありましたか。
お看取りの際に、「LINE WORKS」を使用して家族の方とこまめにやり取りし、感謝されたことがあります。そのケースでは、亡くなる寸前まで情報がほしいという希望があり、24時間情報を共有し続けることができました。また、このコロナ禍では、ビデオ通話を使ってオンライン面会を行うこともありました。
当初想定していなかったメリットはありましたか。

「LINE WORKS」を活用したリアルタイムな情報発信が、自然災害やコロナ禍などの緊急事態時に役立ちました。新型コロナウイルスの感染拡大当初は、情報が錯綜して、面会やスタッフの県外往来などにどのように対応すべきなのか現場スタッフ内で混乱が生じていました。そこで、社内で決めた基準を「LINE WORKS」で全事業所にリアルタイムに発信することでルールが明確になり、スタッフの不安軽減につながったと感じています。

また、電話やFAXと違い既読機能があるため、誰が見たのか見ていないのかについて明確になりますし、コミュニケーションが増えたことで、スタッフ間の人間関係もより良くなってきています。

さらに、外国人技能実習生とのやり取りは手書きだと何度も確認が必要でしたが、文章を自動で翻訳する機能により必要事項をうまく連絡できるようになりました。

他には、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、会議や研修をオンラインで実施するようになりましたので、録画をYouTubeに限定公開してスタッフに共有しています。〈動画保管庫〉として全てアーカイブを残すことで、全体会議に参加できないスタッフも、会議で事項が決まった流れを把握できるようになりました。急な会議でも以前のように能代市の事業所から大館市の事業所まで1時間かけて向かうこともなくなりましたし、動画として残せることで「言った、言わない」の問題や忘れることも防ぐことができるので、とてもプラスになっています。

「LINE WORKS」の掲示板機能を活用して全事業所に一斉に情報共有し、緊急事態時等における対応の統一が可能になった。
外国人実習生への情報共有の際は日本語で送信した内容が翻訳される機能を使用し、細かいニュアンスを伝えられるようにしている。

導入で終わらず継続運用するための人材育成

現在、導入時に期待していた効果は得られていますか。

デジタル技術はただ導入すれば良いわけではなく、使いこなしてようやく業務効率が上がっていくものですが、まだ使いこなす段階までたどり着けていません。使いこなすにはスタッフの教育が必要ですし、

さらに、介護現場用でないツールを介護現場にあわせて作り替えていくために、業者に必要な情報を話せるようにならなければいけないと考えています。将来的にはスタッフ全員がICTを使いこなすことができ、さらにそれを教えていけるようになることで、自分の目指すところを実現できると思っています。

また、今は点となっている各ツールを、全て連携して一気通貫できるようになれば、本当の業務効率につながると思っています。
現在達成しているのは理想の何割くらいでしょうか。
ほしいツールがまだいくつかあることや、全体の人材育成も含めると3割くらいでしょうか。もう7割は頑張らなければならないと思っています。ただ、去年から始めているものもありますし、スタッフの慣れも必要ですので、これから時間をかけながらゆっくり取り組んでいきたいです。
今後はどんな展開を予定していますか。
介護業界の業務効率化に取り組みたいと思っています。スタッフの成長を含め、私たちの歩みは非常に価値のあるものだと思っていますので、それを他の介護事業者の皆さんに伝えていきたいです。
デジタル技術を運用するにはなにより〈人が育っていくこと〉が大切です。人が育っていかないと、デジタル技術を導入しても結局途中で頓挫してしまいます。そうした人材育成の部分も含めて、おすすめのツールやその運用の仕方を広めていきたいと思います。

業務効率が格段に向上した分、利用者の方のケアにあてられる時間が増加。
利用者一人ひとりの心に届く対応をしています。

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。

人手不足や将来への不安感など大きな課題は見えていても、そこからどうしたら良いかという細かい課題が意外と見えていないのではないかと思います。

デジタル化する部分や費用面を全て一緒に考えてしまうと、「できない」という結論になってしまいがちです。そのため、まずは会社全体で自社の業務の細分化を行い、人でなければならない業務とデジタル化できる業務を明確にする必要があります。次に、デジタル化する業務の優先順位をつけ、その後に費用をどこから捻出するかを考える、という手順にすればスムーズに進むと思います。

人手不足で悩む事業者さんがいれば、業務の細分化をしてみれば、デジタル化で補えることはたくさんあるはずです。介護業界でもこれだけデジタル化ができているので、他の産業ならもっとできる事があると思っています。その際にはぜひわたしたちをヒントにしていただきたいですし、聞きたいことがあれば遠慮なく聞いてほしいです。

また、「人手がないからしょうがなくデジタル化する」などと後ろ向きに考えず、これから人口減少の中で産業を残していくために一緒にやっていくツールの一つと思ってほしいです。本当に人手がなくなってからでは取り組めませんし、今は新型コロナウイルスの関係もありデジタル化関係の補助金が多い時期でもあると思いますので、うまく活用しながら少しでも余裕のあるうちにデジタル化に取り組めたら良いと思います。

実際に活用した支援制度(補助金など)