漁業施設内のカメラ静止画公開システムを構築
関係者同士の情報提供・収集業務の負担を軽減

秋田県水産振興センター
水産業普及指導員
甲本 亮太 こうもと りょうた さん

秋田県水産振興センター
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秋田の海や川の環境保全や水産資源の安定的・継続的な利用のため、基礎資料の把握や技術開発を行い、 漁業関係者の経営安定と漁村の活性化などへの寄与を目指す「秋田県水産振興センター」。

人手不足や早朝・深夜労働が常である漁業の現場における業務負担の軽減のため、漁港の情報を自動で発信するシステムの構築に取り組みました。

漁業現場で重要となる情報のやり取りをシステム化

導入したデジタル技術について教えてください。

漁業関係者による情報収集の効率化・負担軽減のため、県内7カ所の漁港施設内にネットワークカメラを設置し、水揚げされた漁獲物や入漁状況などの市場情報をいつでもどこでもスマートフォンで確認できるシステムを構築しました。

システムでは、漁港施設内の荷捌き所(漁船から水揚げした漁獲物を競売まで保管する場所)や港に係留している漁船の静止画を20分おきに自動で取得し、クラウドストレージにアップロードしています。システムを閲覧するのは、仲買・運送業者、漁協職員、水産振興センター職員などの漁業関係者で、それぞれの目的・用途に合わせて画像から得られる情報を活用しています。

全体:ハタハタ大漁時の荷捌き所 左下:シケなどで出漁がない時の荷捌き所

デジタル技術を導入したきっかけは何ですか。

水産業界は、慢性的に人手が不足していることに加え、働く時間帯が極端に早い(または遅い)ことが日常的な職場です。そこで、業務の負担や手間を軽減するため、市場内の情報を・収集するシステムを構築することは、各関係者にとって需要があると判断しました。「人の手を煩わすことなく漁業情報をもっと活用できないか」と考えたのが導入のきっかけです。

漁業振興のためには、水産物の流通を活性化することが不可欠であり、そのためには漁業情報をより一層活用しなくてはならないと考えています。

導入前はどのように情報をやり取りしていましたか?

漁船の出港から競売までの流れの中で、出漁状況や漁獲情報(魚種・大きさ・数量等)などは非常に重要な情報です。

まず、出漁状況次第で、その日に漁獲が期待できるかどうか決まります。出漁している場合、仲買・運送業者は販売先や輸送手段の確保に向け、準備が必要になります。また、漁協は、漁船の出漁状況や漁獲量に応じて職員の数や配置等を工夫し、漁業者の漁獲物を確実かつ効率的に荷受けしたいので、現場の情報をリアルタイムに把握する必要があります。

また、漁獲状況の情報は、販売先が求めている魚種・数量が市場にあるかどうかなど、仲買が販売先と商談をする上で必須となるとともに、水産振興センターの職員は、水揚げがある場合、調査・研究のために漁獲量等を把握する必要があります。

従来は、できるだけ早く情報を集めるため、漁協職員に電話で問い合わせたり、自ら足を運んで確認したりすることが当たり前になっていました。しかし、漁獲物が水揚げされる時刻は日々異なるため、市場に出向く時機を見計らうのは難しいうえに、漁協職員が荷受け業務等で電話に出られない場合などは、情報を得ることすらできません。また、市場に行ってみて初めて漁獲が無いことが分かり、移動時間を無駄にすることもありました。

一方、情報を提供する側の漁協職員も、業務の傍らで多数の関係者から寄せられる問い合わせに個別に対応する必要があり、情報のやり取りにおいて提供側・収集側の双方に負担がかかっていました。

漁港施設内に設置したネットワークカメラ

導入に当たり、何か課題はありましたか。

漁業関係者にとって、情報収集のために市場に足を運び、電話で連絡を取り合うことが仕事上の常識であるため、それまで頼ったこともないカメラを設置することに対して「職場を覗かれる」「監視される」と心理的な不安を抱く関係者も少なくありませんでした。また、「画像だけでは何の役にも立たない」という意見も度々耳にしました。

そうした不安や疑問を取り除くため、漁協の職員をはじめとする各地の漁業関係者に対し、デジタル化の狙いや試験的に設置したカメラの実際の見え方を丁寧に説明し、納得を得られるよう取り組みました。

画像公開により情報提供・収集双方の負担を軽減

導入前との違いは感じていますか。

導入以前には市場関係者同士で時間をかけて確認していた漁業情報を、システム上で提供・収集する仕組みは、情報が欲しい人と情報を提供する人双方のストレスを大幅に軽減しました。

画像を見れば漁獲物の魚種やおおよその数量を確認することができるので、「市場の状況を照会する電話が減り、助かっている」、「市場を行き来する移動時間を節約できた」、「市場の様子が分かるので休憩を取りやすくなった」という声を関係者から聞いており、当初の目標が達成できたと大変嬉しく感じています。

また、導入後の作業削減時間は数値化していませんが、空いた時間を事務作業や休息時間に充てたり、家族と過ごす時間を増やしたりするなど、働き方や暮らし方の変化につながっていることも、今回のシステム導入の大きな効果だと思います。

岩館漁港の荷捌き所。黄枠部分をアップしてみると、ヒラメが水揚げされていることが分かる。

導入前には想定していなかった使い方やメリットがあれば教えてください。

県内でも地域によって水揚げの仕方や競売の方法が異なるため、同じ一枚の画像でも、ユーザーごとに画像の使い方や見方は異なるようです。見る側に市場で長年働いた経験と知識があれば、漁獲物が入った箱の種類や置き場所から「誰がどんな漁法で獲ったものか」などの写っていない情報まで知ることができることに驚きました。

技術的に提供しやすいただの画像であっても、ユーザーの能力に応じて豊富な情報を得られるため、「自分の目で見たい」という好奇心を引き出すような面白さがある点は、想定していませんでした。

導入にあたって工夫された点は何ですか。

漁業情報をいつでもどこでも確認できるシステムにすることにこだわり、関係者がいつも持ち歩くモバイル端末やスマートフォンでシンプルに操作でき、見やすい構造となるように気をつけました。

また、このシステムは、手書きしたラフスケッチを株式会社アキタシステムマネジメントのエンジニアに見てもらい、具体化するための様々な技術提案をもらいながら作りあげました。漁業現場に必要なアイデアは水産振興センターから、それを実装する技術提案は企業から、という「餅は餅屋方式」で良いシステムを作ることができたと思っています。

限られた開発費用だったうえ、長期の運用を前提としていたため、WindowsOSに搭載されているタスクスケジューラと、無料のRPAアプリケーションやクラウドストレージを利用してシステムを構築し、ランニングコストをできるだけ抑えた運用を可能としました。

デジタル化による作業効率化で水産業の振興を

今後はどんな展開を予定していますか。

ユーザーに対して利用状況のアンケートを実施し、システム改良への要望を聞き取っています。その中で「よりリアルタイムに多くの情報を得たい」と、撮影間隔の短縮とカメラ増設の要望があり、既存システムで撮影間隔を自由に設定できるよう新たなカメラの導入を検討しています。

また、既に漁獲情報公開システムの拡充に取り組んでいます。拡充システムでは、荷捌き所の静止画のほか、漁船に取り付けたGPSの位置情報を元にした出漁状況や、漁業者がタブレットに入力した漁獲物の種類や大まかな数量を公開しています。

ただし、漁業者にとって、魚がかかっているかどうか「分からない」ことでワクワクするといったことが働きがいにつながっている側面もあります。現時点での漁業におけるデジタル化の目的は、魚が網に入ったことを感知するなどの予測性を高めることよりも、今獲れている漁獲物をより多く、より価値を高めて流通させることが重要であり、持続的な水産業振興に繋がると考えています。

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。

既存作業をただ単にデジタルに置き換えるのではなく、現場で想定される周年スケジュールを考慮して、人が働きやすく、しかも生産性が高まるような技術導入を提案することが非常に重要だと考えています。

天然魚の漁獲が主な本県漁業は、一次産業の中でも特に自然に近い分野であるため、今後すぐに諸作業の予測性が飛躍的に高まることはないでしょう。いつ・どんな魚が・どれくらい水揚げされるか分からないのに、デジタル導入を優先して人手を減らしてしまうと、突然の大漁時に、少ない人員に過大な負担がかかるうえ、漁獲物を適切に処理できず価値を落としてしまう、といった事態が生じる可能性もあります。

そうした事態を防ぐためにも、デジタル化を省人化の手段としてだけ考えるのではなく、突発的な好不漁にも対応できる漁業現場の作業効率化や、漁業情報の活用による水産物流通の活性化などを通して、水産業に多くの人を呼び込むぞ!という意識が重要だと思います。

水産振興センター参観デーについて

水産振興センターでは、水産業や試験研究業務への県民の理解を深めてもらうことを目的に、年に1回、施設を一般公開する参観デーを開催しています。会場には研究成果に関するパネル展示のほかに、生きた魚と触れ合えるプールや貝殻を使った工作ブースなど、体験型イベントを沢山準備しております。

皆様のご来場をお待ちしております!

お魚水槽

お魚風呂

海藻押し葉

システム導入を支援した方からのメッセージ

甲本 亮太

株式会社アキタシステムマネジメント
システム部システム3課

■課長 玉尾 宏樹 さん(企画提案・設計担当)
当初ご相談いただいた際は、サーバーを用意したりRPAを組む必要もあったため高額の予算が予想され費用対効果の低いシステムになりそうでした。
思い切って無償で使用できるGoogleDriveや無償のRPAを提案し、水産振興センター様に無償ツールを利用するリスクを理解していただくことにより無事導入することが出来ました。
漁港は通信環境が悪く、安定した写真撮影に苦慮しました。
運用開始後も水産振興センター様と相談しながら、システムを改良していくことで安定性を増し、撮影枚数も増やせました。
今後も利便性を上げるための提案を続けて参ります。

■担当 加賀谷 宣征 さん(プログラミング・運用保守担当)
ネットワークカメラによる静止画の公開システムから始まったこのプロジェクトですが、いただいたラフなどを基にどの情報をどのように表示すれば見やすい・操作しやすいかといったユーザーインターフェースの面でも試行錯誤や意見交換を繰り返して使いやすいシステムを作り上げて参りました。
今後も情報の一般公開等様々な機能拡充を行っていきますので水産業の振興に力添えできればと思います。

株式会社アキタシステムマネジメント
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実際に活用した支援制度(補助金など)

  • スマート水産業推進事業のうち資源・漁獲情報ネットワーク構築委託事業(水産庁)
  • 漁業・流通支援システムの構築に関する研究(秋田県)