世界初AI搭載オフセット印刷機開発
熟練工の感覚を数値化、損紙(不良品)を抑制しコストを低減

宮腰精機株式会社
国見工場長
藤原鈴司 ふじわられいし さん

宮腰精機株式会社
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宮腰精機株式会社は、株式会社ミヤコシのグループ会社として、創業40年を越える印刷機械および印刷関連機器の製造会社です。主に、フォーム印刷機、ラベル印刷機、フレキソ印刷機、加工機等のアナログ印刷機の設計開発・製造を手がけています。
印刷会社の人手不足、コスト・環境面で抱えていた課題を解決するために開発したAI搭載の新型印刷機について、開発の背景や完成までの道のりを伺いました。

AI搭載により、作業者の経験に関わらず高品質な印刷状態を確保

開発したAI搭載印刷機について教えてください。
損紙(不良品)低減、生産性の向上、人材不足/育成の課題を解決をするため、熟練工の技術をAI(yaless AI※1)に学習させ、水や温度、版面の輝度をカメラで常時解析し、数値化してモニター表示するシステムを開発しました。
モニターに解析結果が表示されることで、経験の浅い作業者でも、その数値を元に素早く異常を察知でき、水やインキの量を調節して常に最適な印刷状態を維持することができます。
 ※1 yaless AI(商標登録済):オフセット輪転印刷機に搭載したAIソフト名
   業界用語で損紙は「やれ」といい、無くすの意味を持つ「レス」と組み合わせてyaless(ヤレス)と命名
カメラで解析した数値を元に水やインキの量を調節/従来損紙(試し刷り+本印刷)38%低減

現行の印刷機では、どのような課題があるのでしょうか。
現行のオフセット輪転印刷機は、水やインキの量、温度によって印刷の品質が大きく変化し、環境に合わせた繊細な調節が必要になります。そのため、操作する作業者の長年の知識と経験(匠の技)が重要となります。
昨今、印刷業界の人手不足の影響もあり、匠の技をもった人材の確保が困難になってきています。また、当社の顧客アンケートの結果によれば、経験が浅い作業者の操作による印刷不良の増加が印刷業界の経営に大きな影響を及ぼしており、中堅印刷会社の年間損紙金額は、1億円程度になるとのことです。加えて、コスト面だけではなく、環境面(CO2の増加)でも大きな負担がかかっているため、作業環境の改善とともに環境問題にも配慮した改善が必要だと考えました。

yaless AI搭載モデル第1号MLP13M                 MLP13Mによる印刷物

AIを印刷機に搭載したきっかけは何ですか。
最初は何か新しいことにチャレンジをしたいという漠然とした思いがありました。また、海外からの印刷機の受注があった中で競合となる中国製の印刷機に対し、価格以外の点で競り勝つ方法を考えたときに、付加価値をつけて他社との差別化を図るべく、誰もやったことがない「AI×印刷機」を検討し始めたのがきっかけです。
開発に当たり、何か課題はありましたか。
印刷機にAIを搭載するといった世界初の取り組みであり、どのような手順で進めていけばよいのかプロデュースできる人材が自社にいなかったので、当初は開発規模やAI開発の技術的な部分で素人が進められるようなプロジェクトではありませんでした。
そのため、秋田プロフェッショナル人材戦略拠点を通じて、専門の知識や技術を持った外部人材とのマッチングを図るイベントに参加したところ、デジタル業界に精通し、プロジェクトの進行に長けているプロ人材とマッチングすることができ、飛躍的にAI開発が進みました。またマッチングした方は、国家プロジェクトに参加している首都圏の企業や、秋田県の企業まで技術者との人脈が幅広く、様々なベンダー企業を提案して頂きました。最終的にはプロジェクトメンバー全員で話し合い、同じ秋田県の企業だからこそ開発の立ち会いを含め連携しやすいといった理由から、エイデイケイ富士システムにお願いすることにしました。実際、エイデイケイ富士システムにお願いしてよかったと思います。とても親近感があり、コミュニケーションが取りやすいことから、意見が言い合える関係になっていったと思います。
マッチングイベントやベンダー企業などの外部人材との出会いが開発の成功に大きく繋がったものと感じています。

刈和野工場では加工工程ごとの作業量の見える化、生産性の向上へ

導入したデジタル技術の概要を教えてください。
刈和野工場でどのくらいの部品加工の案件があるのか、どの加工工程の作業量が多いのか等について、当社で元々使用していた部品加工管理システムのデータを活用して、Excelファイルに表形式で負荷状況を見える化できるようにしました。
デジタル技術を導入したきっかけを教えてください
部品加工専門工場の刈和野工場は、ミヤコシグループの工場に部品供給を行っているほか、グループ外部からの加工委託も受注しているため、他の工場よりも生産負担が大きな工場でした。更に、工作機械の稼働率に差があり、加工量の平準化ができていませんでした。作業者や工作機械の稼働状況、何工程もある部品加工の進捗状況を見える化することで、加工量の平準化に繋がり生産負荷の軽減が図られるのではないかと検討し始めたのがきっかけです。
デジタル技術を導入した効果を教えてください。
部品加工の停滞箇所が見える化できたことで、部品加工検査部門の部品への刻印工程が停滞していることが明確になり、対策としてレーザーマーカーの導入を行いました。確実に意味のある設備投資ができたことが見える化の大きな効果だと思っています。
また、数カ月先まで加工ボリュームが見える化され、内作するのか外注依頼するのかの判断がしやすくなり、納期遅れの予防にも繋がりました。

デジタルはあくまでも1つの手段、課題と解決方法の見極めが重要

今後はどのような展開を予定していますか。
開発したyaless AIの販促活動を活発化することや、更なる損紙の低減を見込めるyaless AI Professional の開発を推進したいと考えています。従来のyaless AI(standard)はカメラを用いて水や温度、版面の輝度を常時解析していましたが、yaless AI Professionalはセンサーを用いてインキの量も解析できる仕組みとなっています。匠の技に更に近づいたAIになるので、損紙の低減が一層見込めるものと考えています。
デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へメッセージをお願いします。
まずは生産活動のあるべき姿を想像したときに、何が問題なのかを見極めることが大事だと思います。当社の場合は、印刷業界の課題解決の方法としてAIがマッチしましたが、デジタル技術ありきではなく、デジタル以外の解決方法で解決できるならそれでもよいと思います。見えてきた真因に対して対策を施すことでその分の効果を得ることができるのではないでしょうか。

システム導入を支援した方からのメッセージ

エイデイケイ富士システム
情報ビジネス部門 統括副部長
五十嵐 健 さん

弊社はyalessAIの開発という事でお声がけをいただきましたが、印刷機へAIという新たなツールを搭載し、高い付加価値を生み出そうという宮腰精機様の挑戦する姿勢に非常に共感し、ともに開発に携わらせていただきました。
このプロジェクトを通じ、人材不足や育成面での課題、環境面への貢献など、弊社の掲げるデジタル化・DXを通じた全国の地域社会活性化や持続性社会の実現という理念とも合致しており、プロジェクトを通じて印刷業界だけでなく様々な面で貢献ができるものと考えております『yalessAI』という業界初のAIを搭載したミヤコシ様の印刷機の展開に、今後もご期待いただきたいと思います。

エイデイケイ富士システム
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実際に活用した支援制度(補助金など)

  • 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)
  • 秋田県ものづくり革新総合支援事業(刈和野工場)