安全な伐倒の実現を目指す補助装置の開発
AIやGPSを活用し更なる進化へ

株式会社藤興業
代表取締役
佐藤 勝 さとう まさる さん

株式会社藤興業
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平成21年に設立し、地元である由利本荘市東由利地域を中心に湯沢雄勝地域などの素材生産・森林管理といった林産事業の経営を手がけている「株式会社藤興業」。

労働者の死傷率が他業種に比べ非常に高い*林業において、作業員の安全を守ることを目的とした伐倒補助装置ガイドレーザーの開発までの道のりと今後の展望について伺いました。


 *2022年業務別死傷災害年千人率(厚生労働省) 全産業2.3 林業23.5

林業に携わる作業員の安全を守るために

開発したガイドレーザーについて教えてください。

「伐倒補助装置ガイドレーザー」は、かかり木*を防ぐための正確な受け口(倒したい方向を決定する切り込み)の形成を補助する装置です。

また、伐倒方向にずれがある場合も、チェーンソーで受け口を修正して再確認する作業を繰り返すため、作業負荷が増大します。

伐倒補助装置ガイドレーザーを伐倒する木に取り付け、レーザーを照射することにより、受け口を形成する際の切り込み位置が明確になり、倒したい方向へと正確に伐倒することが可能となります。


*かかり木とは、チェーンソーで伐倒した木が周囲の立木に引っかかる現象で、その解消には作業負荷が増大し、危険を伴う作業となります。しかし、受け口の形成については、熟練者の経験と勘に頼る部分が大きく、一般的に、熟練者でも2~3割程度、未熟な作業者では5割程度のかかり木が発生すると言われており、多くの作業事故につながっています。

伐倒の流れ

ガイドレーザーを開発したきっかけは何ですか。

かつて自身が伐倒作業の現場で何度も危険なかかり木の経験をしました。この経験から、自社の従業員の安全を守るために何かできる方法を常に模索していました。その折、ゴルフのパター練習器具を使っている際に、ボールの進行方向をレーザーがガイドしているのを見て、受け口の形成にもレーザーが役立つのではないかとの発想が生まれました。

最初は、パター練習器具のレーザーと身近な部品を活用して、自分自身で試作品を作成しました。その試作品を基に、秋田県産業技術センターやMEP株式会社と共同で開発を進め、当製品が完成しました。

開発に当たり、何か課題はありましたか。
レーザーの種類や色の選定は、非常に苦労しました。最初に検討していたレーザーは、山間の作業現場では周囲の明るさによってレーザーが見づらくなる可能性がありました。そのため、どの種類や色のレーザーが鮮明に視認できるかを試行錯誤で探求しました。さらに、レーザーを供給する企業が限られていたため、開発に必要な要件を満たす協力企業を見つけるまで、困難な課題でした。

研修機関などで活用、自身の技術を見直すことが可能に

開発時に期待していた効果は得られていますか。
現在、全国の47都道府県の集合研修機関や安全指導機関で、自身の技術を向上させる手段として当装置を活用してもらっており、林業全体の安全意識向上に一役をかっているものと思います。
開発後の周囲の反響はいかがでしょうか。
ガイドレーザーの開発を通じて、林業大学校での研修講師としての機会を得ることができました。また、秋田県との共同研究を通して、さまざまな大学の研究室から興味を持っていただき、有意義なつながりを築くことができました。
この縁によって、今後のガイドレーザーの機能向上を図る取り組みや、他のデジタル技術を活用した新製品の開発に対して助力を受けることが可能となりました。今後の展望に向けて、力強い支援を受けながら取り組んでいくことができると感じています。

(左)伐倒補助装置ガイドレーザー (右)佐藤社長が手掛けたガイドレーザー試作機

(参考)ガイドレーザーの取扱説明映像 https://www.youtube.com/watch?v=p7qXSP-wZ7Q&t=11s

これから期待している効果は何ですか。

開発段階で行われた伐倒作業のテストでは、約200本の作業において「かかり木」の発生はゼロという結果が得られました。また、デモ試用として実際の現場でも装置を使用しましたが、「かかり木」の発生は一切ないと聞いています。

AIやGPSなどのデジタル技術を活用したガイドレーザーの機能改善を進めて、実際の現場での導入の促進を図りたいと思います。そして、林業全体の作業員の安全性と生産性の向上に寄与したいと考えています。

デジタル技術を活用した、製品の開発に挑戦

今後はどんな展開を予定していますか。

ガイドレーザーにAIやGPSなどの技術を取り入れたいと考えており、現在開発の検討を進めています。

機能としては、伐倒する木の高さを自動で計測し、周囲の立木にかかるかどうかをAIが自動で判断し、作業員へ音声案内するといった機能を検討中です。また、現場における連絡体制についても、ヘルメットなどにマイクやヘッドセットを活用し、常に遠隔で通話しながら作業を進めることができる環境も整えたいと考えています。

このようなデジタル技術を活用した環境を整えることで、現在安全に作業ができているのか、どの作業を行っているのかについて、作業員全員が共有し、事故防止に繋げていくことができるのではないかと考えます。

また、ガイドレーザーの開発を通じて秋田産業技術センターや複数の大学校の研究室との関係が深まり、新たなデジタル化のプロジェクトも多数展開されています。これからは、より高度なデジタル技術を取り入れ、革新的な製品の開発に望み、林業に携わる作業者の更なる安全の確保に繋げていきたいと思います。

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。

林業におけるデジタル技術の活用はまだ限られていますが、作業員の安全性を向上させるなど、大きな可能性を秘めた技術です。また、これまでは経験や感覚に頼って伝えられてきた新人教育についても、デジタル技術を活用することで作業の標準化が可能になり、新入社員の育成効率化や安全性の確保に大きく貢献できると考えています。

今後、さまざまなデジタル技術の活用事例が増えることにより、事業者の関心が高まることを願っています。そして、林業全体がデジタル化に向けて前進し、作業員の安全が確保される産業に成長することを期待しています。

システム導入を支援した方からのメッセージ

佐藤 勝

秋田県 産業技術センター
電子光応用開発部 部長
梁瀬智さん

「林業」からの要望を「工業」と結びつけて製品を実現する。当センターの支援は、この異業種連携の推進から始まりました。
企業連携の職員や工業側からの参画企業の皆様との議論から、何度かの試作とフィールドテストが行われました。その結果、ライン状のレーザ光が指示情報を可視化(ガイド)する装置が完成しました。これまで経験と勘に頼っていた現場作業者の声にも配慮したデザインを備えています。
製品化の後も、林業の安全を守る開発者の熱意は止むことなく、デジタル技術を活用した高度化・多機能化に向けた新たな開発へ向かっています。

秋田県 産業技術センター
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実際に活用した支援制度(補助金など)

  • あきた農商工応援ファンド(MEP株式会社、秋田県産業技術センター共同開発)