生産性向上と経営力強化を目指す
複数部門の課題に合わせたデジタル化

丸大機工株式会社
取締役 経営企画室 室長
渋谷 政成 さん

丸大機工株式会社
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機械装置の設計から加工・組立・配線・据付調整までの一貫生産体制に対応し、人々の暮らしに欠かすことのできない半導体を製造する装置の生産などを手がけている「丸大機工株式会社」。

地域のリーディングカンパニーを目指して、会社全体で取り組むDXについて伺いました。

地域のリーディングカンパニーを目指して

導入したデジタル技術について教えてください。

大まかに3つの部門で取り組んでいます。

総務部門では、勤怠情報の管理負担を軽減するために、ICカードによる打刻システムを導入しました。また、社員からの有給申請を1つのエクセルに入力することで自動的に必要な情報を集計するツールを自社社員が開発しています。

製造部門では、CELOS DYNAMICpostというPCソフトウェアを導入しました。このソフトウェアは、工作機械に3Dモデルを読み込ませることにより、自動で加工プログラムを作成するとともに、過去の加工データを学習することで、より効率的な設定を提案してくれます。また、切削加工シミュレーション機能により、事前に作成したプログラムの動作による加工形状を仮想空間で確認することができます。

営業部門では、RPAを活用して加工図面の印刷を自動化しました。初期段階では導入支援を受け、夜間に大量の図面を自動印刷するシナリオ作成の立上げをサポートしてもらいました。

今回取材をお伺いした各部門の代表者 
左から生産管理部 山田さん、営業部次長 須田さん、第1製造部長 小杉さん、経営企画室長 渋谷さん

デジタル技術を導入したきっかけは何ですか。

地域のリーディングカンパニーとして、地域をより良くしたいという社長の思いや会社の風土から、最新技術の導入に積極的に取り組むことを意識していました。

各部門の業務に対する課題もきっかけの1つですが、デジタル技術の活用により作業時間の短縮や人件費、光熱費の削減が期待され、同じ時間でも生産個数が増えることで売上が向上するなど、実用的な経営力強化に寄与できるのではないかと考えたのがきっかけです。
導入前の課題と、導入後の変化について教えてください。

【総務部門】
■導入前
従来、勤怠情報はタイムカードで管理され、月末の集計作業を待たないと社員の出勤情報が把握できない状況でした。また、従業員からの有給申請があると、それぞれ対応した5つのエクセルに必要な情報を入力し、出勤率や有給数などを管理していたため、管理業務に対する負担を感じていました。
■導入後
各工場や事務所の入り口に打刻システムを設置したことで、入退室の際に、ICカードで容易に打刻できるようになりました。また、システム上で出勤情報がデータ化され、離れた工場でもリアルタイムで出勤情報を確認できるようになりました。出勤率や有給数などの管理も、入力先が1箇所に統一され、総務担当者の作業時間が4分の1に削減されています。

【製造部門】
■導入前

当部門の業務は専門性が高く、ベテラン社員が音を頼りに工作機械の加工条件を変更するなど、経験の差が大きな要素でした。若手社員はスキルを身につけるまでに1~3年かかり、この高い専門性が異動希望や離職が増える原因にもなっていました。また、作成したプログラムの動作確認には実際の加工機械を使用して検証する必要があり、テスト加工の作業に多くの時間を要していました。
■導入後
仮想空間上に3Dモデルが表示され、視覚的にプログラムの動作や加工形状が確認できるため、プログラムの検証が容易になりました。プログラムミスが減少し、テスト加工の作業時間が大幅に短縮されています。また、AIが自動で加工プログラムを作成することで、仕事が簡素化され、若手社員の働きやすさやストレス軽減に貢献していると感じています。さらに、新人教育の面においても、作業を教える側として教えやすくなりました。

【営業部門】
■導入前
加工図面の印刷は1テーマで50~100枚ほどあり、それを何セットも印刷する必要がありました。また、図面ファイルには全てに開封パスワードがかかっており、一つ一つ開封する手間がありました。さらには複数の人が同時に印刷すると加工図面が混ざってしまったり、順番待ちをしなければいけない非効率な状態でした。
■導入後
帰宅時に実行ボタン一つで夜間に図面を自動的に印刷できるようになり、これにより日中にコピー機が埋まることなく、他の業務で使用できる状態が維持されました。RPAの導入により、年間約120時間の事務作業時間が削減され、主要業務に集中できるようになりました。

(左)導入した打刻システム (右)3Dモデルによる切削加工シミュレーション機能

DX推進におけるアナログな要素の重要性

導入に当たり、何か課題はありましたか。

弊社はDXを長期的に推進する方針を採り、信頼できるDXパートナーの選定が重要であると認識していました。複数の企業からのサービス提案を受け、社内での課題の洗い出しを行った上で、最も効果的なサービスを選ぶことが一番の課題だったと思います。

また、製造部門での機械やソフトの導入には数百万円単位の費用が必要であり、費用面での課題も存在しました。しかし、会社の理解と県の補助金の活用により、導入を実現することができました。

導入に当たって工夫された点は何ですか。

約3年前に各部署から選抜された社員でDXプロジェクトを立ち上げました。最初はDXの基礎知識から始め、各部門の体制を整えながら、社内外のDXに関する情報収集に努め、取組を行ってきました。

また、デジタル化を推進する中で、アナログな部分を大切にしています。特に、社員とのコミュニケーションといったアナログな部分を重視し、社長、部門長、社員間の意見交換を積極的に行っています。DXを進めていくことで部門間を超えて相談し合えるようになり、社内の風通しが良くなったと感じています。

現場スタッフの反応はいかがですか。

導入前は体制の確立や社員とのコミュニケーションを丁寧に行ってきたことから、現場からの反感はありませんでしたが、導入後はトラブルの発生時や社員が使い方を慣れていないことに対するアフターフォローが十分ではなかったことについて、多少不満はあったと思います。

しかし、使い慣れるにつれて、「導入して楽になった。良かった。」という声や「もっと早くやってほしかった。」という声が聞こえ、取組を進めて良かったと感じています。

ビジョンを明確にするデジタル化

今後はどんな展開を予定していますか。

デジタル技術は日進月歩で進化しており、我々はこれに積極的に取り組んでいます。未知のデジタル技術にも関心を持ち、社内外から意見を集約し、最適なサービスを活用していきたいと考えています。

また、各現場の部門長の考えを取り入れ、会社全体で意見を共有し、補助金などの支援を活用しながら、迅速な進展を図っていきたいと考えています。

■各部門の今後の展開
 総務部門:紙申請の有給休暇や人事管理のデータ化。エクセルでなく、アクセス権限を付与したデータベースの作成
 製造部門:デジタル技術を活用した物の管理や教育作業の充実。動画を活用し業務の標準化
 営業部門:見積作業(現場の経験を必要とする項目の算出)をAIにて自動化

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様にメッセージをお願いします。

これまでのやり方を変えることは抵抗感が生まれ、慣れるまで労力も使います。一人だけでなく、チームで支え合いながら進めることが重要です。また、導入の際には社員全員へ将来のビジョンを共有し、その方向性を明確に伝えることが、取組をスムーズに進めるうえで重要なことだと思います。

デジタル技術の活用は、それぞれの事業者ごとに異なる方法やタイミングがありますが、県で開催されるセミナーなどにて、最新のデジタル技術に関する情報を収集し、行政や専門機関等からのアドバイスを受けながら進めてみてはいかがでしょうか。

実際に活用した支援制度(補助金など)