タクシー会社の新しい働き方を目指して
デジタル技術を活用し、人手不足にも対応
株式会社冨士タクシー
代表取締役
髙橋 良輔
さん
株式会社冨士タクシー(外部サイトに移動)
大館市で1936年から続く老舗タクシー会社、冨士タクシー。送迎サービスを基盤に、住みやすい街づくりへの貢献にも力を入れています。
今回は、クラウド型タクシー配車システムをはじめとする様々なデジタル技術を活用した業務改善の取組について伺いました。
人手不足の課題とアナログな手法による業務負担
- 導入したデジタル技術について教えてください。
- クラウド型タクシー配車システムをはじめ、ビジネスチャットツールや書類管理のクラウド化、キャッシュレス決済端末など、業務の効率化を目的に多くのツールを導入しました。
- また、SNSを活用して弊社の会社情報に加え、地域の魅力など、街をよく知るタクシー会社ならではの情報発信を行い、人手不足への対応とともに、地域の活性化への貢献も目指しています。
- デジタル技術を導入したきっかけは何ですか。
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少子高齢化の進行により人手不足が深刻化している中、弊社でも一定の経験が必要とされる配車オペレーターの高齢化や退職が続き、代わりの人材を確保できないという課題を抱えていました。特に夜間の人手が不足していたため、私自身がオペレーターとして全ての受付・配車業務を行うこともありました。
そのような時に、未経験者でも簡単に配車を行うことができる当システムの存在を知り、導入を決意しました。さらに、当システムの導入をきっかけに、働く環境の改善に向けて、様々なデジタルツールを導入しました。
- 以前の体制では、どのような課題がありましたか。
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弊社では、お客様の約9割に電話注文によりタクシーを利用していただいています。以前は、電話があると、送迎先や電話番号などの情報をメモに取り、地図を確認しながら、無線機を通じてドライバーへ注文内容を伝えていました。そのため、オペレーターは、土地勘など数年の経験から得られるスキルを必要とする業務でした。
また、事務作業では、各タクシーに両替用として100円を2000円分束ねて配布するなど、現金の細かいやりとりが発生していました。これらは手作業で行うため、数え間違いなどの人為的ミスが発生し、その都度、金額の確認作業を行っていました。売上げの集計も同様で、各車分を手作業で確認し、日報と照らし合わせるため、作業効率はよいものではありませんでした。未経験者でもオペレーター業務が可能に
- 導入前との違いは感じていますか。
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<クラウド型タクシー配車システムの導入>
電話機や無線機、紙の顧客情報、地図など、今までバラバラだったものが1つのシステムに統合され、業務効率が大幅に向上しました。お客様からの電話注文は、当システムへ転送され、システム内で応対が可能になりました。また、当システム上には、タクシーの現在位置や空車状況などがリアルタイムで表示されるため、簡単に最適な配車を行うことが可能です。ドライバー側にも、当システムが導入されたタブレットが配布されており、オペレーターはお客様の注文内容を即時にドライバーへ共有することが可能になりました。今では、1週間ほどの研修で、未経験者でもオペレーター業務を行うことができるようになりました。パソコンがあれば場所を選ばずにオペレーター業務が可能なため、未経験者、リモートワーク希望者など、求人の幅も広がっています。また、同じシステムを導入しているタクシー会社であれば、アカウントを切り替えることで、他社のオペレーター業務 を遠隔で行うことができます。現在、夜間のオペレーター業務は、他県のタクシー会社に委託し、夜間の人手不足に対応することができました。
クラウド型タクシー配車システムの導入により、タクシーの空車状況や位置をマップで確認しながら配車が可能に
チャットツールの導入と書類管理のクラウド化により、必要な書類データの参照が 容易になり、遠隔地においても情報の共有がしやすくなりました。特にチャットツールは、送迎に関する業務上のやりとりに加え、事故や火事、新しいお店など、街の変化の共有にも使っています。これらの情報を、送迎の効率化にに役立てるとともに、「弊社おすすめの店」としてSNSで発信するなど、街の活性化にも寄与したいと考えています。 -
<キャッシュレス決済端末の導入>
現金のやりとりが減り、集計業務が容易になったほか、両替や精算時の間違いが少なくなりました。また、手持ちの現金が減ったことで、防犯にもつながっています。<SNSの活用>
会社情報や従業員の趣味・特技などの情報発信をすることで、若い世代にも社内の環境や雰囲気が伝わり、求人の応募者が増えました。その結果、以前は60代以下の社員が1名しかおりませんでしたが、現在は60代以下の社員が11名、その内20代の女性社員は2名と、職場の年齢層が若返りました。20代のオペレーター社員や女性社員の採用が拡大
- 現場スタッフの反応はいかがですか。
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長年続けてきた仕事のやり方を変えることに対して、社員からの反感が強く、「ぎりぎりの経営状態なのに、なぜ設備投資をするのか」といった声もありました。しかし、高齢化社会で人手不足が確実に予測される状況で、デジタル化の必要性を説明し、導入を進めました。
全ての社員から同意を得ることはできず、半ば強制的に導入を進めましたが、今では、「このシステムがないと仕事ができない」、「導入前には戻れない」といった声があり、導入して本当に良かったと感じています。 - 導入に当たって工夫された点は何ですか。
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高齢の社員でも操作ができるように、分かりやすいポップやマニュアルの作成、パソコンスキルの向上を目的とした講習会を開催しました。もちろん、初めは抵抗感があったと思います。しかし、少しずつ操作を覚えていくことで、デジタルに関心を持つようになり、高齢の社員同士で使い方を教え合うようになりました。また、若い社員との会話の糸口となり、世代間交流が増え、楽しく習得できる環境が整ってきました。
キャッシュレス決済の端末も一部の車両にしか搭載していませんでしたが、社内で「自分の車にも付けてほしい。」という声が増え、全社一丸となってデジタル化を進めることができています。デジタル化からつながる、タクシー会社の新しい働き方
- 今後はどんな展開を予定していますか。
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地域の過疎化が進むにつれ、マーケットが縮小し、タクシー会社も減少しています。そのような苦しい状況ですが、地域の交通網を守るためにはタクシー会社は必要です。
タクシー会社の人手不足を改善するためには、デジタル技術を活用して業務の効率化を図ることはもちろんのこと、同じような課題を抱える会社同士が、共同で配車を行うなど協力し合う必要があると思います。そういったネットワークを構築し、業界が存続していけるよう、微力ながら弊社から業界へ訴えていきたいと考えています。 - デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。
- デジタル技術を活用することで、業務が効率化されるだけでなく、働きやすい職場環境づくりにもつながり、若い世代が興味を持ってくれるようになります。また、若者が入ることで、新しい考え方が吹き込まれ、従来のタクシー会社が担う送迎サービスに付加価値をつけることができると考えています。
- 自社の存在価値を高めるためにも、様々なデジタル技術を活用して、我々と一緒にタクシー業界の常識を変えてみませんか。