データを活用し高品質・安定供給可能なシイタケ生産を実現
AI選果機で多様な人材が活躍できる職場へ

農事組合法人みずほ
代表理事
熊谷 賢 くまがい まさる さん

農事組合法人みずほ
(外部サイトに移動)
横手市で米、エダマメ、シイタケの栽培・販売を行う農事組合法人みずほ。同法人は様々なデジタル技術を活用し、スマート農業を推進しています。菌床シイタケ栽培におけるIoT技術の活用効果や、同法人が開発したAIカメラによりシイタケの選別を行うAI選果機についてお話を伺いました。

データに基づいた栽培で、高品質・安定供給可能な生産体制に

導入したIoT技術について教えてください。

当法人では、シイタケの栽培ハウス内にセンサーを設置し、温度、湿度、二酸化炭素濃度等を計測し、異常が見られた場合はスマートフォンに通知が来るシステムを導入しています。また、センサーで収集したデータを分析することで、品質と収穫量の向上に役立てています。

そのほかにも、ハウス内にネットワークカメラを設置し、ハウスの状況をいつでもスマートフォンで確認できるようにしています。

現在は3メーカー、5種類のセンサーを使用している。

IoT技術の導入前は、どのような課題がありましたか。

シイタケ栽培は、秋のような寒暖差のある環境を人工的に作り出す必要があり、特に近年の猛暑下では、今まで以上にハウスの環境管理に気を配る必要がありました。しかし、以前は「経験」や「勘」に基づいてシイタケ栽培が行われていたため、適切な温度管理ができず、収穫量や品質が不安定な状態でした。収支が赤字になることもあり、データに基づいた環境管理の必要性を感じていました。

IoT技術を導入したきっかけは何ですか。

私は2019年に東京から移住し、就農しました。以前、電子部品関係の商社に勤務していた経験があり、就農した当初からデジタル技術を活用してシイタケの品質や収穫量を向上できないかと考えていました。そこで、センサーによって収集したデータを分析し、高品質で安定供給可能な生産体制を目指すことにしました。

IoT技術導入前との違いは感じていますか。

センサーが異常を感知した場合はスマートフォンに通知が来るため、すぐにハウスの環境調整が可能となり、シイタケの品質低下を防ぐことができました。異常の原因がエアコンの過剰運転であることも多かったため、無駄な電力消費も削減されました。

また、収集したデータを活用しハウス内環境を見直した結果、シイタケの品質が向上し秋田県種苗交換会において2年連続で三等賞を受賞しました。収穫量も増加し、1菌床当たりの売上高が2倍になるなど、収益性の向上にも寄与しています。

さらに、データに基づいた収穫時期と収穫量の予測を行い、適切な人員配置を行うことができるようになったため、収穫時期を逃すことが減りました。

AI選果機により、初心者でも選別作業が可能

開発したAI選果機についても教えてください。

当法人が開発したAI選果機は、収穫したシイタケを、AIカメラが「良品」か「良品以外」かに判別することができます。選別作業における知識や経験が少ない初心者でも、均一な精度で選別作業に従事することが可能になります。

AI選果機。良品であれば緑のライト、良品以外であれは赤いライトが光る。

AI選果機を開発したきっかけは何ですか。

平鹿地域のシイタケ栽培における、将来的な人手不足と品質低下が問題となっていることです。

シイタケは、良品とそれ以外を生産者がしっかり選別することが高品質へ繋がりますが、その選別作業には知識や経験が必要でした。生産者の高齢化や事業終了によりスキルのある人材が菌床シイタケ栽培から離れてしまい、人手不足が深刻化していたほか、それに伴うシイタケ選別の精度と品質低下への懸念がありました。

そこで、スキルがないスタッフやスポットワーカーなどでも効率的に選別作業を行うことができるよう、私の前職でもある伯東株式会社と共同でAIカメラを活用した選果機を開発しました。

AI選果機の特徴やポイントを教えてください。

AI選果機はシイタケを「良品」か「良品以外」かに1秒で判別することができ、判定精度は84%ほどで、これは約2年間シイタケ選別作業に従事したスタッフと同程度です。

従来の方法では、初めて選別作業を行うスタッフは1つのシイタケを判別するのに4~5秒かかっていました。ベテランスタッフに判断を仰ぐ場合は、さらに時間がかかります。AI選果機を導入することで、選別作業の時間短縮が可能となり、選別作業の経験が浅いスタッフでも、均一な品質で選別作業を行うことができます。さらに、ベテランスタッフに質問を繰り返す必要がなくなり、スタッフ間のストレス軽減にも貢献します。

また、AI選果機の普及により、選別の精度が上がり規格外品のシイタケの市場流出を減らすことができます。これは結果的に、産地全体の品質向上、付加価値向上につながると考えています。

開発に当たり、何か課題はありましたか。
これまで人の経験や勘に頼っていた作業をAIに置き換えるため、人間の判断基準をAIに学習させることに労力がかかりました。
「良品」か「良品以外」かの微妙な違いを判別するためには、人間がどのような特徴に注目して判断しているのかを特定し、その特徴を捉えたデータを大量に用意してAIに学習させることが必要でした。
また、学習の過程において、シイタケの形状だけでなく、選別作業を行う際の外部光がAIの判定に影響をすることが判明しました。選別機にLEDライトをつけ光量を一定にすることで、高精度な判定が可能になりました。

地域のシイタケ農業を守り、多様な人材が活躍できる場を作りたい

IoT技術やAI選果機を活用して、今後はどんな展開を予定していますか。

データに基づいた栽培技術や、AIを利用した選別作業における人材確保の事例などを他の生産者に展開することにより、平鹿地域全体の高品質なシイタケ生産体制の構築に貢献したいと考えています。

AI選果機は、障がい者の作業所として2025年1月に竣工した「農福加工センター」で実証を行う予定です。「農福連携」に取り組むことで、多様な人材の雇用を生み出し、人手不足が進む農業分野において、新たな担い手の確保につなげたいと考えています。

さらに、実証実験で収集したデータを基にして、より利便性の高い自動選別装置を開発し、持続可能なシイタケ生産に寄与していきたいと考えています。

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様にメッセージをお願いします。

デジタル技術の導入は、最初はハードルが高く感じるかもしれません。私も最初は手探りの状態からスタートしました。様々な試行錯誤を繰り返す中で、デジタル技術の導入は必ずしも難しいものではないことを実感しました。

経験や勘に頼っていた部分を可視化し、埋没していた知識や情報を有効活用することで、より客観的で精度の高い判断が可能となり、新たな価値を生み出すきっかけにもなっています。

まずは、自社の課題を明確にし、デジタル技術で解決できる部分を探してみることが重要だと思います。専門家や他の企業の事例を参考にしながら、デジタル技術の導入へ一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

実際に活用した支援制度(補助金など)