スマート農業が可能にした生産性向上と業務負担軽減

農事組合法人たねっこ
代表理事
工藤 浩一 くどう ひろかず さん

農事組合法人たねっこ

大仙市で300ヘクタールもの稲作や大豆栽培を行う農事組合法人たねっこ。東北農業研究センター・秋田県農業試験場とともに実施したスマート農業加速化実証プロジェクトでの取組とデジタル技術の効果についてお話を伺いました。

スマート農業加速化実証プロジェクトを活用し様々なデジタル技術を導入

導入したデジタル技術について教えてください。

当法人では、業務効率化や職員の負担軽減、生産性向上のため、様々なデジタル技術を導入しました。

稲刈り作業中に自動で収穫量を計測できる収量コンバインを活用し、位置ごとの収量データをほ場管理システムのクラウドに蓄積しています。この収量マップデータを活用して、自動操舵トラクターにより可変施肥(※1)を行います。施肥量(※2)を調整し、ほ場内の生育・収量のばらつきを改善しながら、収量の底上げに取り組んでいます。

※1・・・作物の生育状況や土壌のばらつきに合わせて、ほ場の場所ごとに肥料の量を細かく調整して施肥する技術。

※2・・・ほ場に施す肥料の量。

デジタル技術導入前は、どのような課題があったのでしょうか。

生産性向上のための大区画化に当たり、ほ場内での収量にばらつきが大きいことが課題でした。ドローンを使ったモートセンシングを活用して育成データを収集し、施肥量の調整に取り組んだこともありますが、施肥量の改善による結果のデータ収集に時間がかかり、具体的な改善策に繋がらないという課題がありました。

デジタル技術を導入したきっかけは何ですか。

データ収集や活用方法の見直しを検討しているときに、秋田県農業試験場から「スマート農業加速化実証プロジェクトに取り組んでみないか」という提案を受けたのがきっかけです。その後、東北農業研究センター・秋田県農業試験場と様々な実証を行い、当法人が抱える課題の解決に繋がると考えました。また、情報提供やデータ分析についてアドバイスがもらえるということもあり、スマート農業加速化実証プロジェクトに申し込みました。

生産性向上と職員の負担軽減の両立が実現

導入前との違いは感じていますか。

■収量コンバイン

収穫作業中に自動で位置と収量のデータをほ場管理システムに記録することができます。導入前の課題であった収量のばらつきのデータ収集が可能になり、施肥量の調整や次年度の生産計画策定に役立てています。

■ほ場管理システム

トラクターや収量コンバインと連動しており、自動でその日の作業内容が記録されます。規模が大きいため、以前はほ場ごとの作業記録に労力がかかっていましたが、現在では記録作業にかかる時間や手間が削減されました。進捗状況ごとにほ場を色分けして表示するため、一目で進捗状況を確認でき、管理も簡単になっています。

■自動操舵トラクター

自動操舵トラクターは、GPSを利用して自動で位置を調整し、真っ直ぐ走行します。導入前は、「トラクターを直進させること」「トラクターの後方での肥料散布作業」を同時に行うため、作業者は前方にも後方にも注意を払う必要がありました。「トラクターを直進させること」に集中しすぎた結果、後方の肥料散布ができていないなど、本来行うべき作業の妨げになってしまうこともありました。現在は後方の肥料散布作業の状況確認や調整にのみ集中でき、作業の質が向上しました。作業時間も短縮され、職員の負担も軽減しています。

また、ほ場管理システムと連動しており、前年の収量データを活用して施肥マップの作成が可能になり、ほ場内の生育・収量のばらつきが改善され、法人全体としての収量も向上しました。

様々なデジタル技術を組み合わせながら導入したことで、ほ場全体の収益性が向上し、作業負担は軽減されるなど、効果を実感しています。

現場職員の反応はいかがですか。

特に、「自動操舵トラクター」により作業における負担が軽減したと、若手職員を中心に大変喜ばれています。「まっすぐ走る」といった単純作業をトラクターが担うことで、作物の状態を確認しながら管理作業や肥料の調整が可能になるなど、より本質的な技術の習得と向上に集中できるようになりました。

また、身体的な負担も大幅に軽減され、疲労度が減ったことで、仕事終わりのプライベートな時間にも余裕が生まれたと話す職員もいます。

導入に当たって工夫された点は何ですか。

当法人ですでに使用していた農機メーカーが開発したツールを選定し、既存のシステムとの連動を可能にした点です。また、農業試験場から提供されたデータを元に、「収量向上」「省力化」「時間短縮」など各ツールに導入後に期待される効果や目標数値などを明確にし、実証期間にてその効果を検証しました。

導入には目標設定と検証が重要

今後はどんな展開を予定していますか。

デジタル技術の効果を実感しており、今後も様々な技術を導入していきたいです。例えば、現在はトラクターで可変施肥を行っていますが、今後、可変施肥機能を搭載した田植え機を導入予定です。これにより、田植えと同時に施肥量の調整が可能になり、「肥料を撒く」という工程の削減を見込んでいます。

そのほかにも、スマート農業加速化実証プロジェクトの際に検証し効果を実感したものの、当法人の現状に合わず運用に至らなかったツールもあります。そのようなツールもいずれ導入し、更なる業務改善を行いたいです。

デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。
現在は様々なデジタル技術が台頭していますが、導入にはコストがかかります。導入前に、ツール導入により改善されるものやその数値を明確にし、検証することが重要だと思います。専門家や支援機関などに相談しながら、自社に合ったツール導入を検討してみてはいかがでしょうか。

実際に活用した支援制度(補助金など)