多様なデジタルツールにより、職員の業務負担軽減と効率化
ケアの質向上と働きやすい職場づくりの両立を目指して
社会医療法人正和会
統括事務長
加藤 稔樹
さん
社会医療法人正和会(外部サイトに移動)
潟上市を中心に、内科・整形外科・歯科などの病院と、介護老人保健施設・グループホームなどの福祉施設を複数展開し、「和と協調の心をもって、地域医療の発展と維持に努める」ことを理念とする社会医療法人正和会。同法人が運営する介護老人保健施設ほのぼの苑において、職員の負担軽減や業務効率化のために導入した様々なデジタルツールについて、導入後の効果や今後の展開について伺いました。
紙カルテ運用の課題感から多様なデジタルツールを導入
- 導入したデジタル技術について教えてください。
当施設ではWi-Fi環境やスマートフォン・タブレット等のデバイス整備から始まり、介護記録システム、音声入力ソフト、骨伝導インカム、離床・トイレ見守りセンサーなど、多岐にわたるデジタルツールを導入しています。これにより、記録業務や情報共有の効率化、環境音に影響を受けないナースコール対応、転倒事故等の予防と記録業務の正確性の向上に貢献しています。
様々なデジタルツールを組み合わせることで、業務の効率化と質の高いケアを提供しています。

介護記録システム画面。以前は体温グラフを手作業で作成していたとのこと。
- デジタル技術の導入前は、どのような課題がありましたか。
紙カルテによる記録業務の非効率さが、大きな課題でした。
当施設では、介護職員や看護師、リハビリ職員など様々な職種があり、記録業務において記載する内容は職種によりバイタルや排泄、食事量、投薬情報など多様です。職員は業務の都度、自身で各種情報をメモにとり、その後紙カルテへ転記していたのですが、他の職員によってカルテが使用中であると、記録や閲覧のために順番待ちをする必要がありました。また、記録業務は勤務終了間際に集中するため、記録作業が終業時間後にずれ込み、時間外労働が発生することもしばしばありました。
- 導入に当たり、なにか課題はありましたか。
導入当初、タブレット・スマートフォン等の機器の操作に自信のない職員にとっては導入に抵抗感があり、なかには反対する声もありました。また、機器操作の習得をe-ラーニングで行うこととしていたため、職員間でデジタルツールの理解度に差が生まれてしまうことも問題でした。
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記録・ナースコール対応・介助等の様々な業務を効率化
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- 導入前との違いは感じていますか。
■介護記録システム、音声入力ソフト
介護記録システムは、タブレット・スマートフォンを介して入力が可能です。手書きメモから紙カルテへの転記が不要となり、記録や閲覧のために紙カルテを探す時間と手間を削減できました。各職員が手持ちの端末で同時に情報の閲覧が可能となり、入所者の状態をリアルタイムで把握できるようになりました。以前は受付の事務職員が利用者の家族から状態を訪ねられた際、紙カルテを探す、担当の職員に聞きに行くなど、回答するために時間と手間がかかっていましたが、現在は即時に回答できるようになりました。
また、音声入力ソフトにより、作業しながら排泄量やバイタルサイン情報の入力を行えるようになり、1日の記録業務にかかる時間を、職員1人あたり約90分短縮できました。転記や記憶違い等による入力ミスも削減されています。
その他にも、介護記録システムのカメラ機能により、褥瘡(床ずれ)などの経過を写真で確認でき、利用者の状態や治療経過の把握が容易になりました。以前は入所時の荷物チェックの際に荷物の情報を転記していましたが、カメラ機能を活用することで、記録にかかる労力・時間の削減と取り違え等のトラブルの防止に貢献しています。

音声入力の様子。作業しながら入力が可能に。
以前のシステムでは、ナースコールが鳴るたびに、職員は作業を中断し、コールを止めるために受話器まで移動する必要がありましたが、現在はコールが鳴ると職員のスマートフォンに通知が届き、骨伝導インカムを通して直接耳元に聞こえてくるようになりました。これにより、職員は作業を継続したまま、ナースコールへの対応が可能です。
さらに、以前は、ナースコールが鳴っても緊急性の高い用件かどうかわからず、対応の優先順位がつけづらいという課題がありました。現在は、スマートフォンを通して利用者と直接会話できるため、緊急度や必要性を即時に判断し、業務の優先順位をつけられるようになりました。利用者にとっても、すぐに職員と話せる安心感につながっているほか、ナースコールの音漏れも解消され、夜間に利用者の睡眠を妨げることがなくなりました。
介護記録システムや骨伝導インカムは、新型コロナウイルス感染による隔離環境下での作業にも大変役立ちました。当時は隔離エリアを出入りする際は防護服を着脱する必要があり、電話対応やカルテの確認のために、他のエリアに行くことにも労力がかかっていましたが、介護記録システムや骨伝導インカムによりその場にいながら情報共有が可能なため、感染リスクと職員の業務負荷の軽減ができました。
離床見守りセンサーは、利用者の離床等の動作を感知してすぐに職員へ通知されるため、迅速な介助と転倒事故等のリスク軽減につながっています。また、このセンサーは心拍・呼吸数から覚醒・睡眠状態を分析でき、職員は離れた場所からでも利用者の状態を確認することができます。
また、トイレ見守りセンサーは、トイレの入退室時間や便座に座った時間などが通知されるため、職員が常時付き添う必要がなくなり、利用者の心理的負担軽減とケアの質向上に貢献しています。排泄量等も測定も可能で、記録業務の正確性も向上しました。
- 現場職員の反応はいかがですか。
導入当初は抵抗感のあった職員も、使っていくうちにその利便性を実感し、「デジタルツールがなければ困る」という声も聞かれるようになりました。
介護記録システムの導入がきっかけで、新たなツール導入に抵抗がなくなり、最近では「とろみサーバー」の導入が特に喜ばれました。嚥下機能が低下した利用者には、誤嚥を防ぐため飲み物等にとろみをつける作業時間が、従来の約20分からわずか2分に短縮されました。

- 導入に当たり、工夫された点は何ですか。
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新たなツールの導入で、ケアの質向上と働きやすい職場づくりの両立を目指して
- 今後はどのような展開を予定していますか。
これまでの様々な取組は、秋田県介護サービス事業所認証評価制度の認定取得や介護職員の働きやすい職場環境づくり厚生労働大表彰奨励賞の受賞という形で評価されています。これからもより良い職場環境の実現に向け、業務改善を進めていく予定です。
※秋田県介護サービス事業所認証評価制度・・・職員の処遇改善や人材育成等を積極的に実施する介護サービス事業者を、県が一定の基準に基づいて、評価・認証する制度。詳しくは画像をクリック▼
- デジタル技術の活用を検討しているほかの事業者様へ、メッセージをお願いします。
