会社が変わる、社会が変わる「DX」とはー

近年よく聞く「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉。さまざまな意味が伝えられていることから、わかりづらいと感じている方はいるかもしれません。DXの本質は一体…。そして、DXが私たちの日常に与える影響とは。ITビジネス開発・人材育成サービスを提供する、ネットコマース株式会社(東京都武蔵野市)の代表取締役・斎藤昌義さんにお話を伺いました。

ネットコマース株式会社 代表取締役 斎藤昌義(さいとう まさのり)さん
日本IBMで13年間にわたり営業を経験。生産系、販売系、工場の工程管理などのコンサルティングに従事し、マーケティング部門にて新規事業開発を担当する。1995年にネットコマース株式会社を設立し、現職に就任。ITの価値を広く伝える新規事業の立ち上げ支援、ITベンダーの営業力強化支援、講演・イベントのファシリテーション、雑誌やWebメディアへの寄稿などを手がける。

「DX」とは何かを知る

DXの定義を教えてください。

出典/ネットコマース株式会社.ブログ「【図解】デジタル化とDXの違い」

DXは、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授らが2004年に提唱した「デジタルは大衆の生活を変える」といった概念ですが、2010年以降、ビジネスの観点で定義や解釈が語られるようになってきました。さまざまな解釈がされるDXの定義を整理すると、『デジタル・テクノロジーの進展によって、産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなる。そのためには、自分たちの競争環境やビジネス・モデル、組織や体制を再定義し、企業の文化や体質を変革する』ということになるでしょう。

「Digital Transformation」という言葉の通り、本来〈Trans-〉には上下を入れ替える、ものごとをひっくり返す、交差させるという意味があります。既存を「入れ替えること」や「ひっくり返すこと」、すなわち「変革すること」のイメージを〈X〉で表現しているわけです。「デジタルで変革する」ことは、DXの2文字で上手く表現されています。

なぜ、いまDXが求められるのでしょう。

インターネットやスマートフォンの普及により、デジタルが当たり前の世の中になったからです。年配の方もスマートフォンやタブレットを所持し、当然のように使う時代ですよね。DXとは、デジタルが前提の社会に適応するために、働き方や事業の目的などビジネスのあり方を変えていく、見直していくこと。企業はそのような社会に適応し、変化していく必要があります。

DXに密接な「デジタル(デジタル化)」とは

「デジタルが前提の社会」というキーワードが挙がりましたが、そもそもデジタル(デジタル化)とはどういうことでしょうか。

現実世界の「ものごと」や「できごと」はすべてアナログですが、このままではコンピュータで扱うことはできません。0と1の数字の組み合わせに置き換えることで、初めてコンピュータで扱えるカタチ、すなわち「デジタル」になる。そして、アナログをデジタルの使用で補うことが「デジタル化」です。

出典/ネットコマース株式会社.ブログ「【図解】デジタル化とDXの違い」

「デジタル化」という日本語に対応する2つの英単語があります。

一つは、「デジタイゼーション(digitization)」です。デジタル技術を利用してビジネス・プロセスを変換し、効率化やコストの削減、あるいは付加価値を向上させる場合に使われます。例えば、手作業で行っていたWeb画面からExcelへのコピペ作業をRPAに置き換えれば、作業工数の大幅な削減と人手不足の解消に役立ちます。このように、効率化や合理化のためにデジタル技術を使う場合に用いられる言葉です。

もう一つは、「デジタライゼーション(digitalization)」です。デジタル技術を利用してビジネス・モデルを変革し、新たな利益や価値を生み出す機会を創出する場合に使われます。例えば、好きな曲を聴くためにはCDを購入する必要がありましたが、月額定額(サブスクリプション)制のストリーミング配信であれば、いつでも好きなときに、どんな曲でも聞くことができ、音楽や動画の楽しみ方が大きく変わります。このように、ビジネス・モデルを変革し、これまでに無い競争原理を実現して、新しい価値を生み出すためにデジタル技術を使う場合に用いられる言葉です。

これら2つのデジタル化は、どちらが優れているかとか、どちらが先進的かなどで比較すべきではなく、どちらも必要な「デジタル化」です。

デジタル化(技術)とDXの違い

デジタルを進めることがDXにつながるのでしょうか。

DXが示すあるべき姿への変革に、デジタル化は有効な手段の一つと言えます。しかし、それだけでは足りません。事業の目的や経営のあり方を再定義し、変化が早く予測不可能な「いまの社会」に適応するための取り組みも必要になります。

「いまの社会」に対応するためにはどうしたら良いでしょう。

「いまの社会」を支えているのはデジタルであり、そんな社会に対応するためには、変化に俊敏に対応できる企業に変わらなければならない。つまりは、組織の文化や風土、ルールを変えていくことも必要です。システムを整備したとしても、ルールや暗黙の了解を変えなければ変革にはならない。例えば、メールで請求書のやり取りができるようになっても、押印が必要というルールを変えなければ、結局プロセスは変わらないということです。デジタルを使うことがDXではなく、これまでの常識や体質を見直すことがDXにつながります。

DXを推し進めるために

では、DXはどのように進めていくべきでしょうか。

DXを進めるためには、経営者がデジタルへの関心を持ち、その価値を知ることが大切です。デジタルの良い面・悪い面を客観的に理解し、使う文化にしなければならない。電卓は作れないけれど、電卓を使える人は多いですよね。ITツールを作れなくても良いが、どのような使い方ができるか、どんな難しさや効果があるかを知らなければいけない。デジタルが前提となった社会であることを念頭に、まずは知識を身につけ、会社全体を巻き込むことが必要です。

そして、DXの入口は「本当はこうなりたいけど、今はこうだ…」という理想とのギャップを議論し、課題を明確にすること。課題とのギャップを埋めるためにどうやって解決するかを考えた時、デジタルという手段を使った方が良ければ、結果「DX」になります。デジタル技術を使うことがゴールではありません。時流に合わせておのずとビジネスのやり方や手順を変えていこうとすることが、DXなのです。

「DXを進めたい!」と思っている事業者様へ、メッセージをお願いします。

DXのためには、「DXをしよう!」としないこと。まずは、自分たちが直面している「困った」や「何とかしなくては」と実感していること、すなわち課題を徹底的に議論し、明確にすることが必要です。それを解決するための方法は、デジタル技術を使うことばかりではないはずで、仕事の仕方や考え方を変えることかもしれません。そんな解決策の選択肢として、デジタル技術を使った方が良いならば、それを使い、その結果上手く変革できていれば「DX」と言えば良いのです。大切なことは、課題を解決し、業績を改善することで、デジタルを使うことではないということを念頭におきながら、恐れることなく使えるものは積極的に使うことが大切です。

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